
使う電気の1割しか作っていなかった佐賀県が、いまは2.5倍を作る——電気を作る県は10年で入れ替わる
自治体が地域のエネルギー計画を立てるとき、出発点になるのは「この地域で使う電気を、この地域でどれだけまかなえているか」です。環境省の脱炭素先行地域も、域内で使う電力を域内の再生可能エネルギーでできるだけまかなうことを重点に置いています。ところが、自分の県が電気を送り出す側なのか受け取る側なのかを、実績の数字で確かめたことのある担当者は多くありません。「都会が使い、地方が作る」という漠然とした構図のまま計画が組まれることもあります。
この記事では、資源エネルギー庁の電力調査統計から、都道府県別の発電実績(power_generation_by_prefecture)と都道府県別電力需要実績(power_demand_by_prefecture)の2つを突き合わせます。どちらも都道府県×月を1行として、2016年度から収録されています。県内の発電所が発電した電力量を、県内の需要電力量で割った値を、以下では「県内でまかなえている割合」と呼びます。この割合が100%を超える県は、県内で使う量より多くを発電しているということです。
使う電気を、どれだけ県内で作っているか
まず2025年度(2025年4月〜2026年3月)の1年分を合計して、47都道府県を並べます。
最も高いのは福井県の761.9%で、県内で使う量の7倍以上を発電しています。島根県403.1%、福島県398.3%、徳島県281.9%と続きます。最も低いのは滋賀県と埼玉県で、どちらも1.6%です。100%以上の県は47のうち21ありました。
ここで押さえておきたいのは、この割合が「その県で作った電気がその県で使われた」ことを意味しないという点です。電気は県境で止まらず送電線をまたいで流れるので、これは県内の発電量と県内の需要量という2つの大きさを並べただけの数字です。また、需要側は小売電気事業者が供給した電力量なので、工場が自前の発電設備で作って自分で使った分は、発電量にも需要量にも入りません。地域の需給の全体ではなく、系統を通じてやりとりされる電気についての比較として読んでください。
そのうえで並びを見ると、「都会が使い、地方が作る」という構図は半分しか当たっていません。使う側に寄っているのは確かに大都市で、東京都は6.0%、埼玉県は1.6%、大阪府は24.0%です。ところが同じ首都圏の千葉県は239.7%、神奈川県は143.4%で、どちらも県内需要を大きく上回る発電をしています。首都圏は消費するだけの地域ではなく、その内側に大きな発電拠点を抱えています。
逆の方向でも構図は崩れます。地方に分類される県のうち、滋賀県1.6%、奈良県16.0%、群馬県28.0%、和歌山県31.1%、山梨県35.6%は、東京都や大阪府と同じ「使う側」に並びます。県が地方かどうかではなく、県内に大きな発電所が置かれているかどうかが、この割合を決めています。
10年で最も動いた県
次に、2016年度と2025年度の割合を比べ、変化の大きかった県を見ます。上向きに動いた10県と、下向きに動いた10県です。
10年の動きは県によってまるで違います。福井県は631.1ポイント、佐賀県は240.7ポイント、島根県は240.0ポイント上がりました。反対に大分県は119.3ポイント、三重県は73.1ポイント、徳島県は70.8ポイント、和歌山県は70.3ポイント下がっています。
注目したいのは、この上下が「地方か都市か」では説明できないことです。上がった10県にも下がった10県にも地方の県が並び、上がった側には栃木県(62.7ポイント)が、下がった側には千葉県(50.5ポイント)と神奈川県(40.2ポイント)が入っています。県の性格ではなく、その県で稼働している発電所の顔ぶれが変わったことが、この動きを作っています。
立場が入れ替わる仕組み
動きの中身を見るために、大きく上がった佐賀県、大きく下がった和歌山県、そして10年を通じて低いままの東京都の3つを、年度ごとに並べます。
佐賀県は2016年度に10.6%でした。同じ年の東京都は11.4%なので、この時点の佐賀県は東京都より低い、県内需要の1割しかまかなえない県だったことになります。それが2018年度に270.2%へ跳ね上がり、2025年度は251.3%です。同じ期間の県内の原子力発電量は、2016年度の0から2018年度に17,247GWh、2025年度に15,645GWhへと変わっています。県内の原子力発電所が動き出したことが、この段差をそのまま作りました。
佐賀県の線は年ごとの振れも大きく、2022年度だけ114.9%に落ちています。この年の原子力発電量は6,712GWhで、2018年度以降のほかの年の半分以下です。原子力の稼働は年によって上下するため、1年分の数字だけを見て県の位置を決めると読み違えます。
和歌山県はちょうど逆の動きです。2016年度は101.4%で、県内需要をわずかに上回っていました。そこから2019年度の43.6%まで落ち、2022年度に59.1%まで戻したあと再び下げて、2024年度は24.8%、2025年度は31.1%です。10年で3分の1以下になりましたが、途中で戻す年をはさんでいます。県内の火力発電量も同じ期間に5,414GWhから753GWhへ7分の1近くまで縮んでおり、この火力の縮小が割合の低下の主な要因と考えられます。
東京都は10年を通じて低い水準のまま、11.4%から6.0%へゆるやかに下がりました。3つの県の違いを作っているのは県の性格ではなく、県内の発電所が動き出したか、縮小したか、もともと大きな発電所を持たないかの違いです。
数は変わらないのに、真ん中は下がっている
最後に、47都道府県の全体像が10年でどう変わったかを見ます。県内でまかなえている割合が100%以上の県の数と、47県の中央値を年度ごとに並べます。
100%以上の県の数は、2016年度の22から2025年度の21へ、1つ減っただけです。10年間を通しても20から23の間に収まっていて、全体としては安定しています。ところが顔ぶれは同じではありません。佐賀県のように下から上へ抜けた県も、和歌山県のように上から下へ落ちた県もあります。
同時に、中央値は98.6%から80.2%へ18.4ポイント下がりました。10年前は真ん中の県がちょうど県内需要と同じくらいを発電していたのに、いまはおよそ8割にとどまります。作る側と使う側の数はほぼ変わらないまま、その真ん中にいる多くの県が、県内でまかなえる割合を落としてきたことになります。
計画の前提として「うちは作る側」「うちは使う側」と固定して置くと、10年のうちに前提のほうが変わってしまいます。県内の発電所が1か所動くか止まるかで、この割合は数十ポイントから数百ポイント動くためです。
業務での使い方
- 地域エネルギー計画や地球温暖化対策実行計画の基礎資料として、自分の県の位置を47都道府県の中で確かめる。単年ではなく2016年度からの推移で見ると、県内の電源構成が変わった年を特定できる
- 地域新電力の事業計画で、域内の電源からどれだけ調達余地があるかを見積もる。県内でまかなえている割合が低い県では、域内調達だけで需要を満たす設計は成り立ちにくい
- 発電所の休廃止や再稼働が県の数字にどれだけ効くかを、佐賀県や和歌山県の実績から当てはめて考える。立地の誘致や撤退が地域の需給に与える影響の目安になる
データの出典
本記事は資源エネルギー庁 電力調査統計の統計表 2-(2)「都道府県別発電実績」と 3-(2)「都道府県別電力需要実績」を、2026年8月15日時点で集計しています。対象は2016年度から2025年度までの47都道府県×月の実績で、数値はすべて年度で合計しています。
電力の需給は、県ごとの発電量と需要量を同じ期間・同じ単位でそろえて初めて比べられるようになります。こうした分析の土台になるデータを、Queriaは整えた形で公開しています。資源エネルギー庁をはじめとする官公庁のオープンデータについて、列名・単位・文字コードを揃え、テーブルやカラムの意味をメタデータとして添えてあります。データを集めて加工する手間をかけずに、本記事で使った都道府県別発電実績から自分の県の電源別の発電量を確かめたり、都道府県別電力需要実績と突き合わせて直近の月まで追ったりできます。エネルギー統計の整備に時間を取られず、地域の計画をどう組むかの判断そのものに集中できます。
続きや気になることをAIエージェントで深掘りする
Claude Code や Codex に Queria スキル を入れて、下のプロンプトを貼るだけです。ターミナルでも、スマホやブラウザのリモート画面でも使えます。
たとえば「meti.energy.power_generation_by_prefecture と power_demand_by_prefecture を月別のまま突き合わせて、私の県の発電量と需要量の比率が2025年度の月ごとにどう動いたかを出して。太陽光の発電量も月別で並べて」といった深掘りができます。
Queria の公開データで次を分析してください: meti.energy.power_generation_by_prefecture と power_demand_by_prefecture を月別のまま突き合わせて、私の県の発電量と需要量の比率が2025年度の月ごとにどう動いたかを出して。太陽光の発電量も月別で並べて 参考 (この記事): https://queria.io/showcase/prefecture-power-self-sufficiency.md Queria スキル (https://docs.queria.io/queria-skill) を導入済みならスキルで、未導入なら uvx queria で接続できます。
ターミナル(CLI)で始める
claude "Queria の公開データで次を分析してください: meti.energy.power_generation_by_prefecture と power_demand_by_prefecture を月別のまま突き合わせて、私の県の発電量と需要量の比率が2025年度の月ごとにどう動いたかを出して。太陽光の発電量も月別で並べて 参考 (この記事): https://queria.io/showcase/prefecture-power-self-sufficiency.md Queria スキル (https://docs.queria.io/queria-skill) を導入済みならスキルで、未導入なら uvx queria で接続できます。"
おすすめ記事
関連資源エネルギー庁の電力調査統計から、工場などの自家用発電所が2025年度に作った電気を都道府県別に集計し、小売電気事業者の販売量と突き合わせました。
関連経済産業省の電力調査統計から、送電網につながる蓄電池の箇所数と最大出力を都道府県別・月ごとに集計しました。3年で12か所から136か所へ増えた一方、最大出力の7割は4道県に集まっています。
関連市区町村ごとに送電網へ流した電気と受け取った電気を突き合わせました。2024年度に送り出しが上回ったのは1,741のうち410で、最も多いのは水力が最大の電源の166市区町村です。
関連資源エネルギー庁の市町村別データで、太陽光が系統に送り出した電気を地域の電力需要と比べます。2024年度に需要を上回ったのは63市区町村でした。
関連資源エネルギー庁の都道府県別電力需要を12か月移動累計で追い、2016年度から2023年度に大口の需要が二桁増えた5県と、それぞれ増えた時期の違いを示します。
関連ドラッグストアの食品販売額を物価と店舗数で割ると、値上がり分を除いた1店あたりの量は2022年から2025年まで横ばいで、量の伸びの大半は店の数でした。