
製造品出荷額の都道府県データで工業集積と事業所規模の地域差を読む
製造業向けに設備・資材・物流・保守といったサービスを提供する企業にとって、「どの地域に工場が集まっているか」は営業エリアや拠点配置を決める基本的な手がかりです。ただし、工場が多い地域と、一つひとつの工場が大きい地域は必ずしも一致しません。少数の大規模プラントが集積する地域と、中小の事業所が数多く集まる地域とでは、有効な営業の進め方も提案すべき商材も変わってきます。
この記事では、e-Statの社会・人口統計体系に収録された都道府県別の製造業データを使って、製造品出荷額による「集積の量」と、一事業所あたりの出荷額による「事業所の規模」の二つの軸で、工業の地域差を読み解きます。
使用するデータ
製造業に関するこの体系のデータは、経済構造実態調査(製造業)などを出典としており、都道府県別に次の指標が収録されています。
| コード | 指標 | 単位 |
|---|---|---|
| C3401 | 製造品出荷額等 | 百万円 |
| C3403 | 製造業事業所数 | 事業所 |
| C3404 | 製造業従業者数 | 人 |
ここでは最新の2023年(事業所数は同年時点、出荷額は同年実績)のデータを用い、製造品出荷額(C3401)を事業所数(C3403)で割って「一事業所あたり出荷額」を求めます。まずは集積の量を示す製造品出荷額から、全47都道府県の順位を見てみます。
製造品出荷額の上位は、愛知県が58.0兆円で突出しています。2位の静岡県(19.8兆円)の約2.9倍にあたり、自動車を中心とする中京工業地帯の厚みがそのまま現れています。以下、大阪府(19.3兆円)、神奈川県(18.5兆円)、兵庫県(18.5兆円)と、太平洋ベルトの大都市圏と臨海工業地帯が続きます。一方、下位には沖縄県(0.5兆円)、高知県(0.7兆円)、鳥取県(0.9兆円)が並び、上位県との差は100倍を超えます。製造品出荷額は、その地域が抱える工場全体の事業規模を測る指標として、市場の大きさを把握する出発点になります。
一事業所あたりの出荷額で見る「事業所の規模」
出荷額の総量が同じ水準でも、それを担う事業所の数は地域によって異なります。製造品出荷額を事業所数で割った「一事業所あたり出荷額」を見ると、大規模なプラントが集積する地域と、中小の事業所が数多く集まる地域の違いが浮かび上がります。
順位は大きく入れ替わります。一事業所あたり出荷額の首位は山口県(39.0億円)で、大分県(34.0億円)、三重県(31.7億円)が続きます。これらは石油化学・鉄鋼・素材といった装置産業のプラントが臨海部に立地する県で、事業所数こそ多くないものの、一つひとつの規模が際立って大きいことが分かります。出荷額総額では17位だった山口県が、一事業所あたりでは1位に立ちます。
対照的に、出荷額3位の大阪府は一事業所あたりでは37位(10.4億円)、出荷額16位の東京都は46位(5.6億円)まで下がります。両都府は中小の事業所が数多く集まる集積地で、量はあっても一事業所あたりの規模は小さいという構造です。下位には沖縄県(5.2億円)、高知県(5.9億円)が並び、首位の山口県とは約7.5倍の開きがあります。なお、出荷額1位の愛知県は一事業所あたりでも4位(31.3億円)で、規模と量を兼ね備えている点が特徴的です。
全国の製造品出荷額の長期推移
地域差の背景には、製造業全体が景気に大きく揺さぶられてきた歴史があります。全国の製造品出荷額の推移を1975年から追ってみます。
全国の製造品出荷額は、バブル期の1991年に約341兆円のピークを迎えたあと減少に転じました。2008年からの世界金融危機(リーマンショック)では、2008年の約336兆円から2009年の約265兆円へと、1年で約2割の急減を記録しています。その後は緩やかに回復し、2020年は新型コロナの影響で約302兆円に落ち込んだものの、2022年には約362兆円とバブル期の水準を上回り、2023年は約373兆円となりました。
ここでの金額は名目値のため、近年の増加には原材料価格の上昇や円安による押し上げも含まれると考えられます。それでも、製造業の出荷額が景気局面に応じて大きく振れてきたことは、設備投資や受注の波を読むうえで押さえておきたい傾向です。
営業・立地戦略への活用
ここまでのデータは、製造業を顧客とする事業や工場立地の検討に次のように使えます。
- 営業アプローチの設計: 一事業所あたり出荷額が大きい装置産業型の地域(山口・大分・三重など)はキーアカウント中心の深耕営業、中小事業所が多い地域(大阪・東京など)は数を捌くチャネル営業と、地域特性に合わせて体制を組む
- 市場規模の把握: 製造品出荷額のランキングを、その地域で見込める製造業向け市場の大きさのベンチマークにする
- 商材の出し分け: 大規模プラントが多い地域には大口の設備・保守・エネルギー提案を、中小集積地には汎用性の高いパッケージ商材を、と提案内容を調整する
- 投資タイミングの判断: 全国の出荷額の長期推移から景気局面を読み、設備需要が高まる回復期に営業リソースを集中させる
工場がどこに、どんな規模で集まっているかは、個別の企業情報を一つずつ調べているだけでは全体像が見えてきません。出荷額で見た集積の量と、一事業所あたりで見た規模とでは、浮かび上がる地域の姿が変わります。こうした分析の土台になるデータを、Queriaは整えた形で公開しています。e-Statをはじめとする行政のオープンデータについて、列名・単位・文字コードを揃え、テーブルやカラムの意味をメタデータとして添えてあります。データを集めて加工する手間をかけずに、本記事で使った製造業を含む経済基盤テーブルから、自社の商圏にあたる都道府県の出荷額規模を確かめたり、装置産業型か中小集積型かといった地域特性を見極めたりできます。行政データの整備に時間を取られず、営業エリアの設計や工場立地の判断そのものに集中できます。