将来推計人口で読む高齢者市場の地域シフト ― 出店エリアはどこへ動くか

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介護施設、配食サービス、見守り、シニア向け住宅。高齢者を対象にしたサービスの事業開発では、「どこに需要があり、その需要がこれから伸びるのか」を見極めることが出店・撤退の判断を左右します。このとき「高齢化率(高齢者が人口に占める割合)」を地域選定の物差しにすると、判断を誤ることがあります。高齢化率が高いのは人口が減った地方ですが、サービスの市場規模を決めるのは割合ではなく高齢者の実数だからです。

この記事では、国土数値情報の将来推計人口(市区町村別)を使い、2025年から2050年にかけて高齢者の実数がどの地域で伸び、どの地域で縮むのかを追います。対象は介護・ヘルスケアをはじめとするシニア向けサービスのエリア戦略担当者です。

データの概要

使用するのは国土数値情報の将来推計人口(市区町村別)テーブルです。国立社会保障・人口問題研究所の推計をもとに、全国1884市区町村について各年次の総人口と高齢化率を収録しています。主な列は次のとおりです。

内容
population_2025 / population_20502025年・2050年の総人口(人)
elderly_ratio_2025 / elderly_ratio_205065歳以上人口の割合(%)
growth_rate_2025_20502025年から2050年の総人口増減率(%)

本記事の「高齢者人口」は、各市区町村の総人口に高齢化率を掛けた65歳以上人口(実数)として算出します。まず全国の合計で、総人口と高齢者人口がどう動くかを確認します。

全国の総人口は2025年から2050年にかけて15.1%減る一方で、高齢者人口は6.4%増えます。人口全体が縮むなかでも、65歳以上のボリュームはまだ膨らみます。問題は、その増分が全国に均等に生まれるわけではないことです。

市場規模はどこに集まるか

まず2050年時点の高齢者人口(実数)を都道府県別に地図で見ます。色が濃いほど高齢者の絶対数が多い、つまりシニア市場の規模が大きい地域です。

高齢者人口が最も多いのは東京都で、2050年には425.8万人に達します。神奈川・大阪・埼玉・愛知・千葉といった大都市圏がこれに続きます。シニア市場の規模そのものは、人口が集まる都市部に偏在しています。高齢化率が高いと語られる地方の県は、面積こそ広くても色は薄く、市場の絶対量は小さいことが見て取れます。

高齢者の実数が伸びる県・縮む県

次に、2025年から2050年にかけて高齢者人口(実数)がどれだけ増減するかを都道府県別に並べます。全47都道府県を、増減率の上位10・中間・下位10の3つに色分けしました。

高齢者の実数が最も伸びるのは東京都で、2025年比31.6%増。沖縄県(29.0%増)、神奈川県(22.5%増)、愛知県(18.3%増)が続き、埼玉・千葉・大阪といった大都市圏が上位を占めます。一方、下位には秋田県(21.4%減)、長崎県(13.9%減)、山口県(14.2%減)、高知県(14.8%減)など、すでに高齢化が進んだ地方の県が並びます。これらの地域では高齢者すら減り始め、シニア市場は縮小に転じます。同じ「高齢社会」でも、市場が膨らむ地域と萎む地域に二極化していくことが分かります。

高齢化率の高さは市場の伸びを意味しない

ここで冒頭の論点に戻ります。地域選定でよく使われる「高齢化率」と、市場の伸び(高齢者実数の増減率)はどう関係するのでしょうか。人口1万人以上の市区町村について、横軸に2025年の高齢化率、縦軸に2025年から2050年の高齢者実数の増減率をとって散布図にしました。

両者ははっきりとした右肩下がりの関係にあります。現時点で高齢化率が高い市区町村ほど、これから高齢者の実数が減っていく傾向が強く読み取れます。高齢化率が30%を下回る都市部の自治体には実数が増えるところが多く集まる一方、40%を超える自治体の多くは点線(増減ゼロ)より下、つまり高齢者が減る側に位置します。高齢化率は「すでにどれだけ高齢化したか」を示す指標であって、「これから市場が伸びるか」を示すものではありません。高齢化率の高さだけを根拠に出店地域を選ぶと、需要が先細る地域を選んでしまう恐れがあります。

増分が集中する市区町村

最後に、高齢者人口(実数)の増加が大きい市区町村を見ます。2025年から2050年の増加分を市区町村別に集計し、上位15を取り出しました。

増分が最も大きいのは東京都世田谷区で、25年間で9.2万人の高齢者が増えます。杉並区(5.4万人)、大田区(5.3万人)、江戸川区(4.9万人)と東京都区部が並び、千葉県船橋市・市川市・松戸市、埼玉県川口市、神奈川県藤沢市・横浜市港北区といった東京圏の中核市が続きます。上位15はすべて東京とその周辺に集中しており、新たに生まれるシニア需要の大半が首都圏に偏ることが分かります。地方の高齢化が語られる一方で、ボリュームとしての市場は都市と都市近郊に移っていきます。

データの活用

将来推計人口を高齢者の実数で読み解くと、シニア向けサービスのエリア戦略に次のように活かせます。

  • 市場規模と成長性を分けて評価する: 高齢化率(割合)ではなく高齢者の実数とその増減率で候補地を順位づけると、需要が伸びる地域と先細る地域を取り違えずに済む
  • 都市近郊の伸びを取りに行く: 増分が集中する東京圏の中核市は、用地の確保しやすさと需要の伸びを両立できる候補地になりうる
  • 撤退・縮小の判断材料にする: 高齢者すら減り始める地方の自治体は、長期の投資回収を見込む事業では慎重な検討が要る
  • 自社サービスの単価帯と重ねる: 推計人口を所得や住宅の統計と市区町村コードで突き合わせれば、ボリュームだけでなく支払い能力も加味した商圏評価ができる

どの地域で高齢者市場が伸び、どこで縮むのかは、単年の高齢化率や一つの自治体の数字を見ているだけでは分かりません。全国の市区町村を将来時点まで並べ、割合ではなく実数で突き合わせて初めて見えてきます。こうした分析の土台になるデータを、Queriaは整えた形で公開しています。国土数値情報をはじめとする官公庁のオープンデータについて、列名・単位・文字コードを揃え、テーブルやカラムの意味をメタデータとして添えてあります。データを集めて加工する手間をかけずに、本記事で使った将来推計人口テーブルから、自社の対象エリアの高齢者人口がこれからどう動くかを確かめられます。データ整備に時間を取られず、どこに出店するかという判断そのものに集中できます。

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