
都道府県別の薬局密度と無薬局町村から、調剤チェーンの出店余地を読む
調剤分業の進展で全国の薬局数は6万軒を超え、調剤市場は質的な転換期に入っています。新規出店や買収を検討する店舗開発担当者にとっては、「どのエリアに供給余地があるか」「医薬品アクセスの薄い地域はどこか」を数字で把握することが、戦略の土台になります。
この記事では、e-Stat「社会・人口統計体系」の医療施設データから、都道府県別の薬局数と無薬局町村数を抽出し、人口で割り戻した密度マップを描きます。調剤チェーン・ドラッグストアの店舗開発担当者が、出店候補地のスクリーニングやM&Aターゲットの絞り込みに使えるたたき台になることを意図しています。
全国の薬局数と無薬局町村数の長期推移
最初に、ここで使うデータの素性を整理しておきます。e-Stat「社会・人口統計体系」の都道府県別データ(i_pref_health)には、医療提供体制に関する複数のカテゴリが収録されています。今回主に使うのは次の2つです。
| コード | 内容 |
|---|---|
| I7102 | 薬局数(年次、1975年〜) |
| I7103 | 無薬局町村数(年次、1975年〜) |
出典は厚生労働省「衛生行政報告例」です。薬局数は調剤を行う保険薬局を含む薬局の届出数、無薬局町村数は域内に薬局が存在しない市町村の数を表します。
まず、全国の薬局数と無薬局町村数の長期推移を確認します。無薬局町村数は2004年→2005年に380→187と急減していますが、これは平成の大合併(1999〜2010年)で町村が市に統合・編入され「町村」という分母自体が大きく減ったことが主因です。データの不連続として読み解く必要があります。
全国の薬局数は1975年の約2.7万軒から2023年の約6.3万軒へ、およそ2.3倍に増えました。1990年代後半から2010年代にかけて伸び率が加速しており、調剤分業(病院・診療所の処方と薬局の調剤を分ける仕組み)が広がった時期と重なります。
無薬局町村数は1975年の999町村から2023年の138町村まで減少していますが、グラフを見ると2004→2005年に大きな段差があります。これは前述のとおり平成の大合併で「町村」が「市」に変わり集計分母が減ったことによる不連続で、実際に薬局がそれだけ短期間に増設されたわけではありません。大合併がほぼ収束した2010年以降は緩やかな微減が続き、医薬品アクセスの薄い地域がほぼ底打ちで残り続けている構図が読み取れます。日本薬剤師会は2025年7月に「地域医薬品提供体制強化のためのアクションリスト」を公表し、無薬局地域の医薬品提供のあり方を整理しています。
都道府県別の人口10万人あたり薬局数(2023年)
ここからは2023年の最新断面を地域別に見ていきます。都道府県別の薬局数を人口(A1101 総人口)で割り戻し、47都道府県を上位10・中間27・下位10に分けて並べます。
最上位は佐賀県の64.5、次いで高知県60.4、山形県60.0、山口県59.8、山梨県59.7と地方県が並びます。全国平均は50.5で、上位県はおよそ1.2〜1.3倍の水準にあります。最下位は沖縄県の39.4で、佐賀県との差はおよそ1.6倍。下位には沖縄に加え、千葉県(42.7)・埼玉県(43.7)・奈良県(44.4)・福井県(44.5)・神奈川県(45.5)と、首都圏・近畿・北陸の県が並びます。
歯科診療所の偏在では大都市圏ほど密度が高い傾向が見られましたが、薬局はその逆で、地方県ほど人口あたりの店舗数が多いという結果です。都市部では1薬局あたりの処方箋枚数が大きく、大型・集約化が進んでいる一方、地方では小規模な薬局が地域に分散して配置されている構図がうかがえます。
同じデータを地図で確認する
ランキングだけでは地理的な広がりがつかみにくいため、同じ「人口10万人あたり薬局数」を都道府県境界(nlftp.boundary.prefecture)に重ねて確認します。
濃色は九州北部から中国・四国にかけての西日本と東北南部に集中しており、薬局密度が地方県ほど高いランキングの結果が地理的にも確認できます。一方、首都圏・近畿圏の都市県と沖縄県は薄色側に集まり、人口あたりの薬局供給は需要密度ではなく地理的な「分散性」に強く規定されていることが読み取れます。
都道府県別の無薬局町村数(2023年)
最後に、同じi_pref_healthから「域内に薬局が存在しない市町村の数」(I7103)を都道府県別に並べます。無薬局町村が1つ以上ある35都道府県のうち、多い側15都道府県を抽出しました。
最多は北海道の27町村で、全国138町村の約2割を占めます。長野県13・奈良県12・福島県11・沖縄県10と続き、地理的に集落が分散している道県や離島を抱える県が上位に並びました。東京都も7町村で名前を連ねていますが、これは島嶼部(伊豆・小笠原諸島)の村が中心と考えられます。
薬局密度のランキングで下位に並んでいた沖縄県・奈良県は、無薬局町村数でも上位に入っています。「人口あたりの供給も薄く、かつ完全に薬局のない自治体も多い」という二重の構造があり、地域医薬品提供体制の強化対象として注視すべきエリアです。
このデータをどう業務に活かすか
- 出店候補地の一次スクリーニング: 人口10万人あたり薬局数が全国平均(50.5)を下回り、かつ域内に成長する商圏を持つ都道府県を抽出し、対面型薬局や医療モール併設薬局の候補地評価につなげる
- M&Aターゲットの絞り込み: 地方の高密度県(佐賀・高知・山形など)には中小薬局が分散しており、エリア内シェア確保を狙うチェーンにとって調剤分業率と合わせた買収候補のリスト化材料になる
- 地方拠点の運営シミュレーション: 競合過密な都市部の店舗当たり処方箋枚数(高密度=1店舗あたりが小さい)と、地方の低密度市場(1店舗あたりが大きい)を比較し、リソース配分の優先順位を再評価する
- 自治体・薬剤師会との連携: 無薬局町村を抱える都道府県では、訪問薬局・オンライン服薬指導・配送網などのアクションリストに合わせた提案ができる。営業先の選定材料にもなる
数字はあくまで一次スクリーニング用の参考値です。実際の出店判断では、調剤分業率・近隣医療機関の処方箋発行枚数・賃料水準・薬剤師の採用環境などを組み合わせて評価してください。
まとめ
- 全国の薬局数は1975年の約2.7万軒から2023年の約6.3万軒へ約2.3倍に拡大。一方で無薬局町村は2023年時点で138町村残る
- 都道府県別の人口10万人あたり薬局数は最高64.5(佐賀県)から最低39.4(沖縄県)まで、およそ1.6倍の差。上位は地方県、下位は首都圏・近畿の都市県と沖縄県
- 無薬局町村数は北海道27町村が突出し、長野・奈良・福島・沖縄が続く。供給密度が薄い県と無薬局町村が重なる地域は二重の供給不足構造
- Queriaなら、ここで使った都道府県別テーブルをSQL1本で横断でき、対象エリアに置き換えて同じ手順で需給バランスを評価できる