
スポーツ行動者率の都道府県データでフィットネス事業の商圏需要を読む
フィットネスクラブやスポーツ施設の新規出店では、商圏人口や所得水準だけでなく、「その地域の住民がそもそもどれだけ運動しているか」という需要の濃さが会員数を左右します。同じ人口規模でも、運動が生活に根づいた地域と、そうでない地域では潜在的な顧客層の厚みが変わります。この運動習慣の地域差を測る手がかりになるのが、スポーツ行動者率です。
この記事では、e-Stat「社会・人口統計体系」の都道府県別の文化・スポーツデータ(g_pref_culture)を使い、スポーツ行動者率の地域差と推移を読み解きます。スポーツ行動者率(G6500)は、総務省の社会生活基本調査をもとに、過去1年間に運動・スポーツを行った人の割合(10歳以上)を表します。調査は5年ごとに実施され、男女別の値(男性 G650001、女性 G650002)も収録されています。
全国のスポーツ行動者率の推移
まず、市場全体の前提として、全国の運動習慣がどう動いてきたかを男女別に確認します。
全国のスポーツ行動者率(総数)は1996年の76.0%から低下を続け、2011年に63.0%まで下がりました。その後は持ち直し、2016年に68.8%、2021年は66.5%でした。男女別に見ると、男性は一貫して女性を上回りますが、その差は縮まっています。1996年には男性81.7%・女性70.5%で11.2ポイントの開きがありましたが、2021年は男性69.9%・女性63.3%で6.6ポイントまで縮小しました。女性の運動習慣が相対的に伸びてきたことが読み取れ、女性向けの施設やプログラムの裾野が広がってきたと考えられます。
都道府県別のスポーツ行動者率(2021年)
全国値はあくまで平均で、出店判断で効くのは地域ごとの水準です。2021年のスポーツ行動者率を全47都道府県で比較します。上位10・中間・下位10を色分けして示します。
最も高いのは東京都の74.5%で、神奈川県(71.8%)・埼玉県(69.3%)・愛知県(68.8%)・千葉県(67.4%)と大都市圏が上位に並びます。一方、下位は青森県(52.1%)・秋田県(57.1%)・長崎県(57.8%)・山形県(58.4%)・新潟県(59.0%)で、北東北や日本海側の県が集まります。最上位の東京都と最下位の青森県では22.4ポイントの差があり、運動習慣の根づき方は地域によって1.4倍ほど異なります。商圏人口が同じでも、運動を習慣にしている住民の割合がこれだけ違えば、見込める会員層の厚みも変わってきます。
地図で見る運動習慣の地域パターン
ランキングを地図に重ねると、運動習慣が地理的にどう分布しているかが見えてきます。
関東・東海・近畿の三大都市圏が濃く塗られ、運動習慣が広く根づいていることが読み取れます。逆に北東北や日本海側の県は薄く、運動習慣が相対的に弱い地域として浮かび上がります。都市部で行動者率が高い背景には、屋内ジムやスタジオといった施設が身近にあり、天候に左右されずに運動を続けやすい環境があると考えられます。施設の供給と運動習慣は相互に影響し合うため、行動者率の高い地域は需要が顕在化している市場、低い地域は施設の不足が習慣化を妨げている可能性のある市場、と読み分けられます。
所得とのずれから出店余地を読む
運動習慣は所得とも関係します。横軸に2021年のスポーツ行動者率、縦軸に2021年度の1人当たり県民所得(C122101)を取り、47都道府県を散布図にしました。点線は47都道府県の中央値(スポーツ行動者率64.0%、1人当たり県民所得2,949千円)です。
スポーツ行動者率と1人当たり県民所得の相関係数は0.47で、所得が高い県ほど運動習慣も根づきやすいという緩やかな正の関係があります。ただし、すべての県がこの傾向に乗っているわけではなく、中央値で区切った4つの領域に出店の手がかりがあります。
右上には東京都(74.5%・5,761千円)・神奈川県(71.8%・3,199千円)・愛知県(68.8%・3,597千円)・埼玉県(69.3%・3,049千円)など、所得も運動習慣も高い大都市圏が集まります。競合は多いものの需要が顕在化しており、即戦力の市場です。注目したいのは右下で、栃木県(62.6%・3,307千円)・富山県(59.7%・3,291千円)・福井県(61.5%・3,263千円)など、所得は高いのにスポーツ行動者率が中央値を下回る県が並びます。可処分所得はあるのに運動習慣がまだ広がっておらず、施設や動機づけ次第で需要を掘り起こせる開拓余地のある市場と読めます。一方、左上の熊本県(66.6%・2,746千円)・福岡県(67.0%・2,733千円)・沖縄県(65.8%)は、所得が中央値以下でも運動習慣が根づいており、価格設定を抑えても会員が集まりやすい市場と考えられます。
出店戦略への活かし方
- 商圏の需要の濃さを見積もる: 候補地のスポーツ行動者率を確認し、人口規模が同じでも運動習慣の根づき方で見込み会員層の厚みが変わる前提で計画を立てる
- 所得とのずれで開拓余地を探す: 所得が高いのに行動者率が低い県(栃木・富山・福井など)は、施設不足が習慣化を妨げている可能性があり、先行出店の余地を検討する
- 男女比でプログラムを設計する: 男女差が縮小しているとはいえ依然として男性が高いため、女性比率を引き上げる余地のある地域では女性向けプログラムを軸に据える
ある地域で運動が習慣になっているか、それが所得水準と釣り合っているかは、単年・単一地域の数字ではなく、複数年と47都道府県を並べて初めて見えてきます。こうした分析の土台になるデータを、Queriaは整えた形で公開しています。e-Statをはじめとする官公庁のオープンデータについて、列名・単位・文字コードを揃え、テーブルやカラムの意味をメタデータとして添えてあります。データを集めて加工する手間をかけずに、本記事で使った都道府県別の文化・スポーツ統計テーブルから、自社の出店候補地の運動習慣を所得水準と並べて確かめられます。統計の整備に時間を取られず、どこに出店するかという判断そのものに集中できます。
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