
都道府県別の高校データで公立と私立の比率を比べ、教育サービスの商圏を読む
学習塾や予備校、通信教育といった教育サービスの出店では、商圏人口や所得水準だけでなく、「その地域の家庭が進学にどう向き合っているか」が会員数を左右します。私立中高を選ぶ家庭が多い地域は中学受験・高校受験の対策需要が厚く、公立志向が強い地域では公立トップ校を狙う層や内申点対策に訴求軸が移ります。この進学志向の地域差を測る手がかりのひとつが、高校が公立中心か私立中心かという公私の構成です。
この記事では、国土数値情報の学校データ(school)を使い、都道府県ごとの私立高校の比率を読み解きます。このデータは国土数値情報の学校データ(P29)をもとに、全国の学校の所在地・学校種別・管理者を収録したものです(第2.0版・令和3年)。管理者は国・都道府県・市区町村・民間・その他に分類され、ここでは管理者が「民間」の学校を私立として扱います。
教育段階で変わる公私の構成
まず、全国でどの教育段階が公立中心で、どこが私立中心なのかを確認します。幼稚園から大学まで、各段階で私立(管理者が民間)の割合を見ます。
私立の割合は教育段階によって大きく異なります。幼稚園は66.5%と就学前から私立が主役で、義務教育の小学校は1.3%、中学校は7.7%とほぼ公立で占められます。そして高等学校は28.8%、大学は70.9%と、教育段階が上がるにつれて再び私立の比重が高まります。
注目したいのは高等学校です。小中学校がほぼ公立、大学が私立中心とどちらかに偏るのに対し、高校は公立と私立がもっとも拮抗する段階で、その配分が地域によって変わります。だからこそ高校の公私比率は、地域の進学志向を映す指標として使えます。全国の高等学校4,996校を母数に、都道府県別の私立比率を見ていきます。
都道府県別の私立高校比率
2021年時点の私立高校比率を全47都道府県で比較します。上位10・中間・下位10を色分けして示します。
最も高いのは東京都の55.6%で、高校の半分以上が私立です。大阪府(40.3%)・京都府(37.2%)・福岡県(36.7%)・神奈川県(35.0%)と、大都市を抱える府県が上位に並びます。一方、下位は徳島県(7.7%)・秋田県(9.4%)・沖縄県(11.9%)・岩手県(16.5%)・群馬県(16.9%)で、地方の県が集まります。最上位の東京都と最下位の徳島県では7.2倍の開きがあり、高校をどちらに通わせるかという選択肢の構成は地域によって大きく違います。私立比率が高い地域は中学受験から私立中高一貫を志向する層が厚く、低い地域は公立進学校を軸にした進路が主流と読み分けられます。
地図で見る公私の地域パターン
ランキングを地図に重ねると、私立志向が地理的にどう分布しているかが見えてきます。色が濃いほど私立高校の比率が高い県です。
三大都市圏と福岡が濃く塗られ、人口の多い都市部で私立高校の比率が高いことが読み取れます。私立校は一定の生徒数が見込める都市部に集まりやすく、選択肢が多いほど私立を選ぶ家庭も増えると考えられます。逆に東北・四国・沖縄などは薄く、公立高校が進路の中心になっている地域として浮かび上がります。出店候補地がどちらのパターンに属するかで、求められる対策(私立中高一貫の受験対策か、公立進学校・内申点対策か)が変わってきます。
所得とのずれから需要を読む
私立を選べるかどうかは家計の余裕とも関係します。横軸に私立高校比率、縦軸に2021年度の1人当たり県民所得(C122101)を取り、47都道府県を散布図にしました。点線は47都道府県の中央値(私立高校比率24.7%、1人当たり県民所得2,949千円)です。
私立高校比率と1人当たり県民所得の相関係数は0.50で、所得が高い県ほど私立の比重も高まる緩やかな正の関係があります。ただし、すべての県がこの傾向に乗っているわけではなく、中央値で区切った4つの領域に教育サービスの需要の手がかりがあります。
右上には東京都(55.6%・5,761千円)・神奈川県(35.0%・3,199千円)・愛知県(25.2%・3,597千円)など、所得も私立比率も高い大都市圏が集まります。私立中高一貫の受験対策市場が成熟しており、競合も多い激戦区です。注目したいのは右下で、栃木県(19.7%・3,307千円)・富山県(18.9%・3,291千円)・群馬県(16.9%・3,187千円)・徳島県(7.7%・3,202千円)など、所得は中央値を上回るのに私立比率が低い県が並びます。家計に余裕がありながら公立志向が根強い地域で、公立トップ校を狙う層や難関公立対策の需要が見込めると読めます。一方、左上の福岡県(36.7%・2,733千円)・熊本県(31.6%・2,746千円)・奈良県(30.6%・2,549千円)は、所得が中央値以下でも私立の比重が高く、教育費を私学に振り向ける志向が強い市場と考えられます。
出店戦略への活かし方
- 商圏の進学志向を把握する: 候補地の私立高校比率を確認し、私立中高一貫の受験対策が効く地域か、公立進学校・内申点対策が軸になる地域かを見極める
- 所得とのずれで需要の質を読む: 所得が高いのに私立比率が低い県(栃木・富山・群馬・徳島など)は、家計に余裕がありながら公立志向が強く、難関公立対策の需要が掘り起こせる可能性がある
- 競合環境を織り込む: 私立比率も所得も高い大都市圏は受験対策市場が成熟し競合も多いため、価格や指導形態で差別化の軸を用意する
ある地域が公立志向か私立志向か、それが家計の余裕と釣り合っているかは、単年・単一地域の数字ではなく、学校の立地データと所得統計を47都道府県で並べて初めて見えてきます。こうした分析の土台になるデータを、Queriaは整えた形で公開しています。国土数値情報やe-Statをはじめとする官公庁のオープンデータについて、列名・単位・文字コードを揃え、テーブルやカラムの意味をメタデータとして添えてあります。データを集めて加工する手間をかけずに、本記事で使った全国の学校所在地テーブルから、自社の出店候補地の高校の公私構成を所得水準と並べて確かめられます。統計の整備に時間を取られず、どこに出店するかという判断そのものに集中できます。
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