
病院の立地データで都道府県別の病床の偏在と病院規模を読む
在宅医療や訪問看護のサービスエリアを設計するとき、急変時の入院先となる後方支援病院がどれだけ厚く分布しているかは、提供体制の前提を左右します。国は新たな地域医療構想のもとで入院から在宅医療への移行を進めていますが、その受け皿となる病床は全国一律ではなく、地域によって厚みが大きく異なります。連携先を確保できるかどうかは、進出エリアの選定そのものに関わる問題です。
ここでは全国の病院の位置と病床数のデータを都道府県別に集計し、人口に対して病床がどれだけあるか、そしてその病床が少数の大きな病院に集まっているのか、多数の中小病院に分散しているのかを見ていきます。病床の絶対数は人口の多い地域ほど大きくなるため、人口で割った密度に直して比べます。
医療機関の位置は国土数値情報の医療機関データ(nlftp.facility.medical_institution)を使います。全国の医療機関が緯度経度付きの点データとして収録されており、病床数や開設者などの属性が付いています。施設は医療機関の種別(medical_class)で病院・診療所・歯科診療所に分かれます。
病床の大半は病院に集中しています。診療所や歯科診療所は施設数こそ多いものの、入院設備を持たない無床のものが大半で、病床数はごくわずかです。後方支援の受け皿となるのは入院機能を持つ病院なので、ここでは種別が病院のものだけを対象に、病床数(bed_count)を集計します。このデータは令和2年(2020年)時点の収録です。各病院の位置を都道府県境界データ(nlftp.boundary.prefecture)と空間結合してどの都道府県に属するかを判定し、e-Stat「社会・人口統計体系」の総人口(e_stat.ssds.a_pref_population の A1101)の2020年値で割って、人口10万人あたりの病床数を求めます。
まず、人口10万人あたりの病院の病床数を地図で見ます。色が濃いほど、人口に対して病床が厚い地域です。
濃い色は西日本、とくに九州・四国・中国地方や北海道に広がり、首都圏や中京圏など大都市圏では薄い色が目立ちます。人口10万人あたりの病床数は、その地域に暮らす人に対して入院できる病床がどれだけ用意されているかを表します。全国平均は約1,198床ですが、色の濃淡は病床の厚みが地域によってはっきり分かれることを示しています。
同じ指標を47都道府県で並べます。上位10・中間27・下位10の3グループに色分けしました。
最も病床が厚いのは高知県で、人口10万人あたり2,305床です。鹿児島県が2,024床、長崎県が1,953床、徳島県が1,903床と、西日本の県が上位を占めます。一方、下位は神奈川県の806床、埼玉県の855床、愛知県の879床、東京都の897床、千葉県の926床と、大都市圏が並びます。最上位の高知県と最下位の神奈川県では約2.9倍の開きがあり、中央値は岩手県の1,362床です。
大都市圏で人口あたりの病床が薄いのは、人口の集積に病床の整備が追いついていないことを反映しています。在宅医療のエリアを設計するうえでは、こうした地域ほど後方支援病床の余裕が小さく、連携先の確保がタイトになりやすいと読めます。
同じ病床の厚みでも、それが多数の中小病院に分かれているのか、少数の大きな病院に集まっているのかで、連携の組み方は変わります。横軸に人口10万人あたりの病床数、縦軸に1病院あたりの平均病床数を取り、47都道府県を散布図にしました。
破線は各指標の中央値(人口あたり1,362床、1病院あたり183床)です。2つの指標は逆向きに動いており、人口あたりの病床が多い県ほど、1病院あたりの病床規模は小さくなる傾向がはっきり表れています。
右下に位置する高知県や鹿児島県は、人口あたりの病床は全国で最も厚い一方、1病院あたりの病床数は高知県132床、大分県129床、徳島県128床と小さく、中小規模の病院が数多く分散する構造です。左上に位置する滋賀県は、人口あたりの病床は997床と少ないものの、1病院あたりは247床と全国で最も大きく、少数の大規模病院に病床が集約されています。神奈川県・愛知県・埼玉県といった大都市圏も、人口あたりは薄く1病院あたりは大きい集約型に寄っています。
この違いは連携先の組み方に直結します。分散型の県では、多数の中小病院それぞれと関係を築く必要がある一方、集約型の県では少数の基幹病院との連携が体制の要になります。同じ「病床が厚い/薄い」でも、その中身は地域ごとに異なります。
病床を誰が運営しているかも、連携を考えるうえでの手がかりになります。病院の病床を開設者別に集計すると、担い手の構成が見えてきます。
病床の過半は医療法人が担っており、839,187床にのぼります。次いで自治体立の病院などの公的医療機関が301,045床、独立行政法人や国立病院機構などの国が125,458床です。1病院あたりの平均病床数で見ると、医療法人立は147床、国立は393床、公的医療機関は258床と開きがあり、医療法人立は地域に根ざした中小規模の病院、公的医療機関や国立は救命救急や高度医療を担う大規模病院が中心という違いがうかがえます。開設者の構成を押さえておくと、地域でどのような病院と連携できるか、その性格を事前に見立てられます。
病床の厚みは、数を数えるだけでなく人口や病院数に対する比率として見て初めて、地域ごとの性格が見えてきます。こうした比較の土台になるデータを、Queriaは整えた形で公開しています。国土数値情報の医療機関データや行政区域データ、e-Statの統計について、列名・単位・文字コードを揃え、テーブルやカラムの意味をメタデータとして添えてあります。データを集めて加工する手間をかけずに、本記事で使った医療機関テーブルや都道府県別人口テーブルから、自社が検討する地域の病床の厚みと病院構造を確かめられます。地理データの整備に時間を取られず、エリア戦略の判断そのものに集中できます。
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