
都道府県別の介護保険給付費で介護サービス市場の規模と地域差を読む
訪問介護やデイサービス、有料老人ホームといった介護サービスの新規拠点を検討するとき、まず押さえたいのは「その地域に、どれだけの市場があるか」です。介護サービスの売上の大半は介護保険給付でまかなわれるため、地域ごとの給付費の規模と伸びは、市場ポテンシャルを測る最も素直な指標になります。
この記事では、e-Stat「社会・人口統計体系」の都道府県別福祉データから介護保険給付費を取り出し、市場規模・成長・高齢者一人当たりの3つの観点で、介護サービス市場の地域差を読み解きます。
介護保険給付費は20年あまりで3倍に
最初に、ここで使うデータの素性を整理します。e-Stat「社会・人口統計体系」の都道府県別福祉データ(j_pref_welfare)には、介護保険給付に関するカテゴリが3つ収録されています。
| コード | 内容 |
|---|---|
| J7101 | 介護保険給付(件数) |
| J7102 | 介護保険給付(費用額) |
| J7103 | 介護保険給付(支給額) |
費用額(J7102)はサービスにかかった総費用、支給額(J7103)はそのうち保険から給付された分です。ここでは事業者の売上規模に近い総費用として、費用額(J7102)を市場規模の代理指標に使います。まず全国の費用額の推移を確認します。
介護保険制度が始まった2000年度の約3.5兆円から、2023年度には約11.2兆円へと、20年あまりで3倍以上に拡大しました。2006年度に一時的に減少していますが、これは2005年の介護保険法改正で施設の食費・居住費が原則として保険給付の対象外となったことが影響していると考えられます。その後は一貫して増加が続き、2023年度が過去最高です。高齢化を背景に、介護サービス市場は安定して拡大してきた市場だと読み取れます。
市場規模は人口規模で決まる ― 都道府県別の給付費総額
次に、2023年度の費用額を都道府県別に並べます。47都道府県を上位10・中間27・下位10に分けて比較します。市場規模そのものを表すため、給付費の絶対額(億円)で見ています。
最大は東京都で約1兆456億円、次いで大阪府(約8,722億円)、神奈川県(約7,306億円)と、人口の多い大都市圏が並びます。最小の鳥取県(約598億円)と比べると、東京都の市場規模はおよそ17倍です。給付費の総額は基本的に人口規模、とりわけ高齢者人口の多さに連動しており、市場の「大きさ」だけを見るなら大都市圏が圧倒的です。ただし、市場が大きいことは競合の多さと表裏一体でもあります。
需要の濃さは別物 ― 高齢者一人当たりの給付費
総額は人口で決まるため、地域ごとの「需要の濃さ」を見るには、利用者の母数である高齢者人口でそろえる必要があります。2023年度の費用額を同年の65歳以上人口(A1303)で割った、高齢者一人当たりの給付費を都道府県別に並べます。
全国平均は高齢者一人当たり約30.8万円です。上位には大阪府(36.0万円)、島根県(35.0万円)、和歌山県(34.7万円)、秋田県(34.5万円)が並び、下位には栃木県(26.2万円)、茨城県(26.6万円)、埼玉県(26.8万円)、千葉県(27.6万円)が集まります。最上位の大阪府と最下位の栃木県の差は約1.4倍です。
市場規模では大都市圏が上位を占めていましたが、高齢者一人当たりで見ると北関東・首都圏の県がむしろ下位に回り、近畿・中国・東北の県が上位に来ます。一人当たり給付費は、サービス提供体制の充実度や施設の整備状況、要介護認定率の地域差を反映していると考えられます。需要の「濃い」地域は、高齢者数のわりに給付が活発で、サービス供給の余地が相対的に大きいと読むこともできます。
市場規模と高齢者人口の関係
最後に、市場規模が何で決まるのかを散布図で確認します。横軸に65歳以上人口(万人)、縦軸に給付費(億円)を取りました。
給付費と高齢者人口はほぼ直線的な比例関係にあり、市場規模の大半は高齢者人口で説明できることが分かります。一方で、直線から上に外れている県は高齢者一人当たりの給付が多く、下に外れている県は少ない、という読み方ができます。前のランキングで上位だった大阪府は直線より上に、下位だった栃木県や茨城県は直線より下に位置します。出店候補地を評価するときは、高齢者人口で市場の「大きさ」を見積もったうえで、この直線からのずれで「濃さ」を補正すると、需給バランスをより立体的に捉えられます。
このデータをどう業務に活かすか
- 市場規模の見積もり: 候補地の高齢者人口に、近隣県や全国平均の高齢者一人当たり給付費(約30.8万円)を掛けると、地域の介護保険給付費の概算が得られる
- 需給バランスの評価: 高齢者一人当たり給付費が全国平均を下回る地域は、高齢者数のわりに給付が少なく、サービス供給の余地が残っている可能性がある
- 成長性の確認: 全国の給付費は長期的に拡大が続いている。対象地域の高齢者人口の将来推計と組み合わせれば、中期の市場成長を見込める
- 競合戦略の補助線: 市場規模の大きい大都市圏は競合も多い。総額と一人当たりの両方を見て、規模と濃さのバランスが取れたエリアを探す
数字はあくまで一次スクリーニング用の参考値です。実際の出店判断では、サービス種別ごとの需要、要介護認定者数、競合事業所の分布、人材確保のしやすさといった指標と組み合わせて評価してください。
まとめ
- 全国の介護保険給付費(費用額)は2000年度の約3.5兆円から2023年度の約11.2兆円へ、20年あまりで3倍以上に拡大した
- 都道府県別の市場規模は高齢者人口に連動し、最大の東京都(約1兆456億円)と最小の鳥取県(約598億円)でおよそ17倍の差がある
- 高齢者一人当たりの給付費は全国平均で約30.8万円。最上位の大阪府(36.0万円)と最下位の栃木県(26.2万円)で約1.4倍の差があり、市場規模とは異なる地域パターンを示す
Queriaなら、ここで使った介護保険給付費と高齢者人口のテーブルをSQL1本で横断できます。自社の対象地域に置き換えて、市場規模と需要の濃さの両面から評価してみてください。