
特定健診3,000万件の検査値分布で肥満・血圧・血糖の年齢差と地域差を読む
40〜74歳を対象に毎年行われる特定健康診査(いわゆるメタボ健診)は、日本で最も規模の大きい健康診断の一つです。その検査結果はレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)に集約され、集計結果が「NDBオープンデータ」として公開されています。2026年6月に公開された第11回NDBオープンデータには、2023年度に実施された特定健診の検査値分布が収録されました。
健康診断の結果というと平均値で語られがちですが、このデータの持ち味は「分布」が分かることです。検査項目ごとに値の階級(例えばBMIなら「25.0以上30.0未満」)別の該当者数が、年齢階級・性別・都道府県のクロスで集計されています。本記事ではこのデータから、生活習慣病に関わる代表的な3指標 — 肥満(BMI)・血圧(収縮期血圧)・血糖(HbA1c) — を取り上げ、基準以上の人の割合が年齢・性別・地域でどう変わるかを数えます。
使用するのは厚生労働省NDBオープンデータの特定健診 検査値分布(mhlw.ndb.health_checkup)です。2023年度分として、BMI・腹囲・血圧・血糖・脂質・肝機能・腎機能・尿検査・眼底検査など25の検査項目が収録されており、それぞれ検査値の階級(value_class)× 年齢階級(age_class、40〜74歳の5歳刻み7階級)× 性別 × 都道府県別に件数(count)を持ちます。都道府県には47都道府県のほか「都道府県判別不可」という区分があり、本記事の県別集計では除外します。
本記事で使う3指標と、数える範囲は次のとおりです。
| 指標 | 収録されている階級 | 本記事で数える範囲 |
|---|---|---|
| BMI(kg/m²) | 18.5未満〜40.0以上の7階級 | 25.0以上の4階級(肥満の目安) |
| 収縮期血圧(mmHg) | 120未満〜180以上の6階級 | 140以上の3階級(高血圧の診断基準水準) |
| HbA1c(%・NGSP値) | 5.6未満〜8.4以上の6階級 | 6.5以上の3階級(糖尿病型の目安) |
まず全国の規模感を確認します。
BMIの検査件数は男女合わせて約3,094万件にのぼります。受診者全体で見ると、BMI 25以上は男性の36.6%・女性の21.4%、収縮期血圧140mmHg以上は17.8%、HbA1c 6.5%以上は7.3%です。ただし、これらはあくまで40〜74歳の受診者全体をまとめた数字です。年齢と性別で分けると、指標ごとにまったく違う姿が見えてきます。
なお、この健診データは服薬中の人も含む1回の測定値の分布であり、そこから計算した割合は医学的な有病率そのものではありません。本記事では「基準となる階級以上に該当した受診者の割合」として扱います。
3指標について、基準以上に該当する割合を年齢階級別・男女別に並べます。
3指標の年齢カーブは、それぞれ形がまったく異なります。
肥満(青系)はほとんど加齢で増えません。男性は40代前半の34.83%から50代前半の39.52%まで上がったあと下降に転じ、70代前半では30.81%と40代より低くなります。女性は19〜22%の狭い帯に収まり、全年齢でほぼ横ばいです。
収縮期血圧(赤系)は男女とも一貫して上がり続けますが、注目したいのは男女差の変化です。40代前半では男性10.88%・女性5.03%と2倍以上の開きがあるのに、年齢とともに女性が急速に追い上げ、70代前半では男性30.64%・女性29.82%とほぼ並びます。
血糖(緑系)も上がり続ける指標です。HbA1c 6.5%以上の割合は、男性で40代前半の3.28%から70代前半の16.75%へ約5.1倍、女性では1.20%から9.27%へ約7.7倍に増えます。血圧と違い、男女差は縮まりながらも70代前半で約1.8倍残ります。
なお、この図は2023年度の断面を年齢階級別に並べたもので、同じ人を追跡した変化ではありません。70代の肥満割合が40代より低い背景には、加齢による体格の変化だけでなく、世代ごとの食生活の違いや、健康状態の良い人ほど健診を受け続けやすいことも影響し得る点には注意が必要です。
次に地域差を見ます。男女差が大きい肥満は、割合の高い男性に絞って47都道府県を比べます。
最も高いのは沖縄県の46.90%で、受診した男性のほぼ2人に1人がBMI 25以上に該当します。2位の北海道(41.15%)に5ポイント以上の差をつけた、明確な突出です。以下、青森県(40.27%)、福島県(39.38%)、宮城県(39.22%)と、北海道・東北の各県が上位に並びます。
一方、最も低いのは鳥取県の32.72%で、新潟県(32.82%)、京都府・島根県(ともに33.05%)が続きます。最上位の沖縄県と最下位の鳥取県の差は14ポイント余りです。最下位でも男性の3人に1人近くが該当しており、水準そのものはどの県でも低くありませんが、その上で地域差がはっきり乗っている構図です。
血圧はどうでしょうか。収縮期血圧140mmHg以上の割合(男女計)を地図に重ねます。色が濃いほど割合が高い地域です。
最も高いのは山梨県の23.55%で、山形県(23.10%)、鳥取県(22.53%)、岩手県(22.22%)、秋田県(22.16%)が続きます。地図では東北から甲信、山陰にかけての帯が濃く塗られる一方、首都圏や大阪府など大都市圏は淡く、最も低い東京都は14.07%、次いで神奈川県が14.97%です。最高の山梨県と最低の東京都では約1.7倍の開きがあります。
読み解きには一つ注意があります。この割合は40〜74歳の受診者全体に対するもので、県ごとの受診者の年齢構成の違いを含んだ数字です。血圧は先ほど見たとおり年齢で大きく上がるため、現役世代の被保険者が多い都市部は低く出やすく、受診者の年齢層が高い県は高く出やすくなります。それでも、肥満の上位だった沖縄県や北海道が血圧では突出せず、代わりに内陸・日本海側の県が上位に並ぶという指標ごとの顔ぶれの違いは、このデータを分布のまま眺めて初めて見えてくるものです。
特定健診約3,094万件(BMI測定の男女合計)の検査値分布を数えて、次のことが見えてきました。
年齢を重ねると何がどう増え、何が増えないのか。そしてどの指標に、どんな地域差が乗っているのか。3,000万件の分布を数えると、平均値だけでは見えない輪郭が浮かび上がります。こうした分析の土台になるデータを、Queriaは整えた形で公開しています。NDBオープンデータをはじめとする官公庁のオープンデータについて、列名・単位・文字コードを揃え、テーブルやカラムの意味をメタデータとして添えてあります。本記事で使った特定健診 検査値分布テーブルには腹囲・中性脂肪・肝機能など残る20あまりの検査項目も収録されており、同じデータを自分の関心のある指標や地域で数え直すことができます。
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