
介護サービス事業所データで、サービス種類ごとの市区町村カバー率を読む
団塊の世代が75歳以上になる2025年に向けて、国は地域包括ケアシステムの構築を進めてきました。住み慣れた地域で最後まで暮らせるよう、住まい・医療・介護・生活支援を一体で届ける構想です。その担い手は、訪問介護やデイサービス、特別養護老人ホームといった多様な介護サービス事業所です。
こうした事業所は、どのサービスがどの地域まで届いているのでしょうか。介護の話題は個々の施設や制度改正を中心に語られがちですが、サービス種類ごとの地域的な広がりは、全国の事業所を横断して数えたときに初めて見えてきます。この記事では、全国の介護サービス事業所データから、サービス種類ごとに「何割の市区町村に事業所があるか」を数えます。
使うのは、厚生労働省の介護サービス情報公表システムから抽出した介護サービス事業所データ(establishment)です。介護保険の対象となるサービスを提供する事業所を1レコードで収録し、所在地・緯度経度・法人番号・サービス種類・定員などを持ちます。同一の法人・所在地でも、提供するサービス種類ごとに別レコードになる点に注意が必要です。
全体の規模を数えると、レコード数は223,161件、サービス種類は35、都道府県は47すべて、市区町村は1,888(政令指定都市の行政区を1単位として数えたもの)にわたります。まず、事業所数の多いサービス種類の上位を見てみます。
最も数が多いのは居宅介護支援(ケアマネジャーがケアプランを作る事業所)で36,491件、次いで訪問介護が35,191件、通所介護(デイサービス)が24,758件と続きます。ケアマネジメント・訪問・通所という在宅生活の土台となるサービスが、件数でも上位を占めています。「事業所数」の隣に「市区町村数」を並べたのは、件数の多さと地域的な広がりが必ずしも一致しないためです。次にこの点を掘り下げます。
ここでは、サービス種類ごとに「その事業所が1つ以上ある市区町村の数」を、介護事業所が所在する全国1,888市区町村で割った割合を「カバー率」と呼びます。代表的な16のサービスについて、カバー率の高い順に並べました。
はっきりとした傾斜が現れます。上位は、居宅介護支援(98.6%)、介護老人福祉施設(特養)と訪問介護(ともに94.1%)、通所介護(91.1%)、認知症グループホーム(90.3%)、訪問看護(80.8%)と、9割前後の市区町村に届いています。在宅と施設を支える基幹的なサービスは、ほぼ全国に行き渡っていると言えます。
一方で、下位には近年になって制度化された、あるいは提供が難しいサービスが並びます。24時間対応で訪問介護と看護を組み合わせる定期巡回・随時対応(33.7%)、医療と介護を一体で提供する介護医療院(29.0%)、訪問看護を組み込んだ看護小規模多機能(28.8%)は、いずれも3割前後の市区町村にしかありません。とりわけ夜間対応型訪問介護は7.4%で、9割以上の市区町村に事業所がない状況です。基幹サービスが行き渡る一方で、在宅の重度者や医療ニーズを支える新しいサービスほど、届く地域が限られているという構図が見えてきます。
カバー率の低いサービスは、全国のどこに偏っているのでしょうか。地域包括ケアの要と位置づけられ、24時間365日の在宅生活を支える定期巡回・随時対応を例に、都道府県ごとに「その県内で事業所がある市区町村の割合」を計算しました。全47都道府県を、割合の高い順に並べています。
上位は神奈川県(70.7%)、東京都(70.0%)、兵庫県(67.3%)、埼玉県(63.9%)と、都市部の府県が並びます。人口が集中する地域では、県内の7割前後の市区町村に定期巡回の事業所が置かれています。
対照的に、下位には高知県(6.1%)、徳島県・沖縄県(ともに8.3%)、青森県・和歌山県(ともに10.0%)と、10%前後の県が続きます。これらの県では、定期巡回の事業所がある市区町村は1割前後にとどまります。また北海道は17.6%で、188の市区町村のうち事業所があるのは一部です。広い面積に集落が点在する地域では、24時間対応の巡回サービスを採算に乗せにくい事情も背景にあると考えられます。同じ全国制度のサービスでも、実際に住民の手が届く範囲には、都市部と地方で大きな差があることが分かります。
全国の介護サービス事業所をサービス種類ごとに数えると、供給の構造がいくつか浮かび上がります。
いずれも、個々の施設や制度改正を追っているだけでは見えにくい、サービス種類ごとの地域的な広がりの差です。こうした全体像を数える土台になるデータを、Queriaは整えた形で公開しています。厚生労働省の介護サービス情報公表システムをはじめとする行政のオープンデータについて、列名・単位・文字コードを揃え、テーブルやカラムの意味をメタデータとして添えてあります。本記事で使った介護サービス事業所テーブルから、自分の地域の事業所を数えたり、気になるサービス種類の分布を確かめたりと、同じデータを自分の関心に沿って調べられます。
この記事では都道府県と市区町村カバー率までを見ましたが、このテーブルには市区町村コードや緯度経度も含まれます。特定の市区町村に絞った事業所の一覧、サービスが1つもない自治体の抽出、地図上での分布といった、より細かい粒度の分析も同じデータから行えます。自分の地域や関心のあるサービスで詳しく見たい場合は、外部ツールからの接続方法や分析の始め方をまとめたガイドを用意しているほか、お問い合わせからご相談いただくこともできます。データを集めて加工する手間をかけずに、サービスの届き方を地域ごとに把握するところから始められます。
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