
町丁・字別の民営借家率で賃貸需要のあるエリアを見極める(福岡市の例)
賃貸住宅の用地を仕入れるとき、まず知りたいのは「そのエリアに賃貸で住む世帯がどれだけいるか」です。実際に民間の賃貸住宅に住まれている割合が高い地区は、賃貸需要が実績として裏づけられた立地といえます。
この賃貸需要の代理指標である民営借家率を、これまでの記事では都道府県から市区町村へと下ろしてきました。ただしその出典である住宅・土地統計調査は標本調査のため、市区町村が最小単位です。用地の最終評価に必要な町丁・字までは下りられませんでした。
そこで本記事では、全数調査である国勢調査の小地域集計を使います。国勢調査は住宅の所有関係を町丁・字の単位で集計しており、民営借家率を用地選定に使える解像度まで下ろせます。人口の流入が続き賃貸市場が活発な福岡市を例に、賃貸需要の地理的な濃淡を読み解きます。
使うのは e-Stat の令和2年国勢調査 小地域集計(census_small_area_housing)です。町丁・字ごとに、住宅に住む一般世帯を所有関係で区分した世帯数が収録されています。区分は次の3つのコード(cat01)で表されます。
| コード | 内容 |
|---|---|
| 0010 | 住宅に住む一般世帯(総数) |
| 0020 | 持ち家 |
| 0030 | 民営借家 |
民営借家は民間の賃貸住宅を指し、公営住宅やUR・公社の賃貸、給与住宅は含みません。そのため持ち家と民営借家の合計は総数には一致せず、残りはこれらその他の所有形態です。ここでは賃貸需要の指標として、民営借家の世帯数を総数で割った民営借家率(0030 ÷ 0010)を使います。
なお各行には秘匿区分(cat02)が付いており、1 が数値の得られる地区、2 は合算・3 は秘匿で値が伏せられています。以下ではすべて cat02 = '1' に絞り、境界データ(small_area)と key_code で結合しています。
まず福岡市の7区を、民営借家率の高い順に並べます。
民営借家率がもっとも高いのは博多区で67.7%、次いで中央区が60.5%です。両区は福岡市の都心にあたり、住宅の3分の2前後が民間の賃貸で占められています。博多区では持ち家率が19.2%と低く、民営借家率は持ち家率の約3.5倍です。
一方、市の西側・南西側にあたる早良区(38.0%)や西区(40.8%)では、持ち家率(早良区45.9%、西区46.8%)が民営借家率を上回ります。同じ福岡市でも、都心の博多区と郊外の早良区では民営借家率に約30ポイントの差があり、賃貸で住む世帯の割合は区によって大きく異なります。用地選定の最初のふるい分けは、この区単位の差から始められます。
区単位の平均は、区の中の濃淡をならしてしまいます。同じ博多区でも、賃貸中心の地区と持ち家中心の地区が混在します。そこで民営借家率を町丁・字まで下ろし、境界に重ねて地図にします。世帯数が少なく比率が不安定になる地区を避けるため、総世帯数50以上の地区に限っています。
色の濃い(民営借家率の高い)地区は、博多駅・天神を含む都心部と、そこから鉄道沿いに帯状に広がっています。地区別に見た民営借家率は0%から98.6%まで分布し、中央値は45.9%です。同じ区の中でも、駅に近い地区は賃貸中心、周縁の戸建て住宅地は持ち家中心と、色が連続的に変化していることが分かります。区単位の平均だけを見ていると、こうした地区ごとの層の違いは見えてきません。
地図で濃く見えた地区を、具体的な地名で確認します。総世帯数200以上の地区にしぼった、民営借家率の高い上位15地区です。
上位には民営借家率が9割前後の地区が並びます。最上位の西区 九大新町(98.6%)は、九州大学が伊都地区へ移転した際に整備された新しい市街地で、学生や大学関係者向けの賃貸住宅が集まる地区です。博多区 中州五丁目(93.8%)は歓楽街を抱える中州にあたり、住宅のほとんどが賃貸です。上位には博多区・中央区の都心部に加え、東区 松香台二丁目(93.4%)や南区 那の川二丁目(92.3%)のように、集合住宅がまとまって立地する地区も入っています。
こうした地区は、実際に賃貸で住まれている実績が飛び抜けて高く、賃貸住宅の需要が厚いと読めます。ただし民営借家率が高いことは、その地区の賃貸物件がすでに多いこと、すなわち競合も多いことの裏返しでもあります。用地選定では、民営借家率で需要の厚い地区を絞ったうえで、区や近隣地区の水準と比べて供給余地を見極める使い方が有効です。
町丁・字別の民営借家率は、賃貸住宅の用地選定を段階的に絞り込む土台になります。
区単位の平均は、同じ市の中で賃貸需要が層状に分かれている実態を覆い隠します。町丁・字まで下ろして初めて、駅に近い賃貸中心の地区と周縁の持ち家中心の地区の境目が見えてきます。Queriaは、こうした分析の土台になる国勢調査のオープンデータを整えた形で公開しています。小地域集計と境界データについて、列名・単位・所有関係の区分コードを揃え、テーブルやカラムの意味をメタデータとして添えてあります。データを集めて加工する手間をかけずに、本記事で使った小地域 住宅の所有関係別世帯数テーブルから、対象を任意の市区町村に切り替えて同じ地図を描けます。データの整備に時間を取られず、用地の見極めそのものに集中できます。
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