
国勢調査の産業別就業者数で街の住民像を町丁字まで描く
賃貸住宅の商品企画や店舗の出店計画では、対象エリアにどんな住民が暮らしているかを見極める必要があります。人口や年齢構成は入り口になりますが、それだけでは「同じくらいの人口・年齢でも、街の性格がまるで違う」という現場感覚をうまく説明できません。街の性格をもう一段解像度を上げて捉える手がかりのひとつが、住民が働く産業の構成です。
国勢調査の小地域集計には、町丁・字(丁目)単位で「産業大分類別の就業者数」が収録されています。ここでいう就業者数は常住地ベース、つまりその地区に住んでいる就業者を、勤め先の産業で分類したものです。専門・知識サービスに就く人が多い地区と、製造や物流の現場で働く人が多い地区とでは、世帯の所得水準や生活スタイルの傾向が異なると考えられ、産業構成は街の社会経済的なプロフィールを映す代理指標になります。
この記事では、東京23区の比較から始めて、大田区を町丁・字まで分解し、街の住民像を読み解いていきます。
このデータは e-Stat「令和2年国勢調査」の小地域(町丁・字等)別 産業大分類別就業者数(census_small_area_industry)です。就業者を農林業から公務まで20の産業大分類(cat01)に分けて収録しており、値は就業者数(人)です。地区ごとに一部の産業は秘匿されるため、集計区分(cat02)が「無し(開示)」のセルを使います。地区の識別コード(area)は同じデータセットの境界データ(small_area)と共通で、key_code で結合すれば地図に描けます。
まず、大田区全体(就業者約35万人)の産業構成を見てみます。
大田区では卸売業・小売業(15.2%)と製造業(11.6%)が上位に来る一方、情報通信業(10.5%)も1割を占めます。以降では、産業構成のなかでも所得や職種の傾向が出やすい情報通信業(0090)、金融業・保険業(0120)、学術研究・専門技術サービス業(0140)の3分類を「知識産業」とまとめ、就業者に占める割合を指標に使います。
まず、23区それぞれで知識産業に就く住民が就業者に占める割合を比べます。上位を青、中位を薄い青、下位をグレーで色分けしています。
最も高いのは中央区(33.3%)で、港区(32.5%)、渋谷区(32.1%)、千代田区(31.0%)と都心の区が続きます。目黒区(29.2%)、文京区(29.1%)といった城西・文教エリアも高い水準です。一方、下位には足立区(14.4%)、葛飾区(15.7%)、江戸川区(16.4%)と城東の区が並びます。最上位と最下位では2.3倍の開きがあり、住民の職業構成が区ごとに大きく異なることが分かります。
大田区は19.4%で、23区のなかでは下位グループに位置します。ただし、この区平均の数字だけを見て「大田区は知識産業の住民が少ない街」と結論づけるのは早計です。次に、区の内側に目を向けます。
大田区を町丁・字まで分解し、知識産業の就業者比率を地図にしました。色が濃いほど比率が高い地区です。
区平均は19.4%ですが、町丁・字まで下ろすと比率は最も低いところで5.1%、最も高いところで30.3%と、6倍近い幅で分布しています。色の濃い(比率の高い)地区は、北千束・南千束・田園調布・上池台といった区の西側の高台に固まり、色の薄い地区は羽田・糀谷・大森南など東側の臨海部に現れます。同じ大田区でも、丘陵の住宅地と臨海の工業地帯とで住民の職業構成がはっきり分かれていることが読み取れます。
比率が対照的な町丁・字を上位・下位から5つずつ取り出すと、次のようになります。
上位は北千束三丁目(30.3%)、南千束三丁目(29.7%)、田園調布五丁目(29.5%)と続き、下位は大森南五丁目(5.1%)、羽田五丁目(6.4%)が並びます。区の平均値だけでエリアを一括りにすると、この町丁・字単位の濃淡は完全に見えなくなります。
濃淡の両端にあたる田園調布と羽田について、産業構成そのものを並べてみます。地名ごとに全丁目を合算し、主な産業大分類の構成比を比べました。
同じ区内でも、街の産業プロフィールは大きく異なります。田園調布では情報通信業(11.3%)と学術研究・専門技術サービス業(11.3%)が厚く、金融業・保険業(4.8%)も相応にあります。一方の羽田は運輸業・郵便業が21.5%と突出しており、空港と物流の集積地という立地がそのまま住民の職業構成に表れています。田園調布の運輸業・郵便業(3.0%)とは7倍以上の開きです。製造業はどちらも1割前後ですが、それ以外の産業の重みが街ごとに違うことが見て取れます。
こうした産業構成の違いは、同じ「大田区」という括りでは決して見えません。街ごとの住民像を、勤め先の産業という一次データから裏づけられるのが小地域集計の強みです。
住民の産業構成を町丁・字単位で読むと、エリアを対象にした業務で次のように使えます。
街の住民像は、区や市の平均値をいくら眺めても、町丁・字単位の濃淡までは見えてきません。こうした分析の土台になる国勢調査データを、Queriaは整えた形で公開しています。統計GISの小地域集計について、産業分類コードや秘匿区分の意味をメタデータとして添え、境界データと同じコード体系で結合できる形に整えてあります。データを集めて加工する手間をかけずに、本記事で使った産業別就業者数テーブルと町丁・字境界テーブルから、自社の対象エリアを町丁・字単位で調べられます。小地域データの整備に時間を取られず、エリアの見極めそのものに集中できます。
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