
有効求人倍率の都道府県データで拠点ごとの採用難易度を読む
複数の拠点で人を採用する企業にとって、「その地域でそもそも採用できるのか」は出店や拠点新設の判断を左右します。同じ求人を出しても、応募が集まりやすい地域と、何ヶ月かけても充足しない地域があります。この採用環境の地域差を測る基本指標が有効求人倍率です。ハローワークに登録された求職者1人あたり何件の求人があるかを表し、1を超えると求人が求職者を上回る「人手不足(売り手市場)」を意味します。
この記事では、e-Stat「社会・人口統計体系」の都道府県別労働データ(f_pref_labor)を使い、有効求人倍率の地域差と推移を読み解きます。労働の指標は同じテーブルに数百種類が収録されており、ここでは有効求人倍率(F310301)を使います。値は年度ごとの集計です。
全国の有効求人倍率の推移
まず、拠点戦略の前提として、全国の採用環境がどう動いてきたかを確認します。
全国の有効求人倍率は2015年度の1.23倍から上昇を続け、2018年度に1.62倍まで達しました。その後、新型コロナの影響で2020年度に1.10倍まで急落します。回復局面に入って2022年度に1.31倍まで戻したものの、以降は緩やかに低下し、2024年度は1.25倍でした。点線で示した1.0倍を全期間で上回っており、全国で見れば一貫して求人が求職者を上回る状態が続いています。ただし全国値はあくまで平均であり、採用の現場で効くのは地域ごとの水準です。
都道府県別の有効求人倍率(2024年度)
2024年度の有効求人倍率を全47都道府県で比較します。上位10・中間・下位10を色分けして示します。
最も高いのは東京都の1.76倍、次いで福井県の1.73倍です。上位には福井県・石川県(1.53倍)・富山県(1.39倍)といった北陸の県や、岐阜県(1.52倍)、山口県(1.45倍)・岡山県(1.44倍)・広島県(1.43倍)・島根県(1.42倍)など中国地方の県が並びます。一方で下位は神奈川県(0.91倍)・沖縄県(0.98倍)・千葉県(0.99倍)・北海道(0.99倍)で、首都圏南部や近畿圏の周辺県(埼玉県1.04倍、兵庫県1.00倍)も低い側に集まります。最上位の東京都と最下位の神奈川県では約1.9倍の開きがあり、同じ求人でも採用のしやすさが地域によって大きく異なることが分かります。
地図で見る採用難易度の地域パターン
ランキングを地図に重ねると、採用が逼迫している地域の分布が見えてきます。
北陸から東海、中国地方にかけての日本海側・内陸の県が濃く塗られ、採用環境が逼迫していることが読み取れます。これらの地域には製造業の集積地が多く、生産年齢人口が限られるなかで求人が積み上がりやすい構造があります。逆に、神奈川県・千葉県・埼玉県といった首都圏の周辺県は薄く、東京都への通勤圏として求職者が厚いため、求人倍率が抑えられていると考えられます。採用のしやすさは、その地域単独ではなく周辺の労働市場との関係で決まる側面があります。
地域差は一時的か、構造的か
年度によって順位が入れ替わるなら拠点戦略には使いにくいですが、地域差が安定しているなら判断材料になります。対照的な4都県の推移を比較します。
福井県は2015年度から2024年度まで一貫して高く、コロナ下の2020年度でも1.57倍と1.5倍を割りませんでした。これに対し神奈川県(2024年度0.91倍)と沖縄県(同0.98倍)は全期間を通じて1.0倍前後で推移し、低位が定着しています。東京都は2015年度1.81倍から2020年度に1.27倍まで落ち込み、2024年度に1.76倍へ戻すなど振れ幅が大きく、景気変動の影響を受けやすい特徴が見えます。順位そのものは年度をまたいでおおむね安定しており、地域の採用難易度は一時的なものではなく構造的だと言えます。
賃金水準とは連動しない採用難易度
採用が難しい地域は賃金も高い、と考えがちですが、データはそうした関係を示しません。横軸に2024年度の有効求人倍率、縦軸に同じ2024年の所定内給与額(男性一般労働者、F620217)を取り、47都道府県を散布図にしました。点線は47都道府県の中央値(有効求人倍率1.26倍、所定内給与額326.0千円)です。
有効求人倍率と所定内給与額の相関係数は0.09で、両者にはほとんど関係がありません。右下の領域には福井県(1.73倍・317.0千円)や岐阜県(1.52倍・321.1千円)など、採用は難しいのに賃金は中央値以下という県が並びます。逆に左上には神奈川県(0.91倍・387.9千円)や千葉県(0.99倍・352.4千円)など、賃金は高いが求人倍率は低い、つまり採用しやすい大都市周辺の県が位置します。東京都(1.76倍・440.8千円)だけは右上に離れ、採用難と高賃金が両立する特異な市場です。採用のしやすさと人件費の高さは別の軸であり、拠点ごとに分けて評価する必要があることが読み取れます。
拠点戦略への活かし方
- 新拠点の採用可否を見積もる: 候補地の有効求人倍率を確認し、1.5倍を超える地域では充足に時間がかかる前提で採用計画を立てる
- 人件費と採用難易度を分けて評価する: 賃金が低い地域でも採用が難しい場合があり、両者を別々に見て出店地を比較する
- 周辺の労働市場まで含めて見る: 大都市の通勤圏は求職者が厚く採用しやすい一方、独立した地方都市は周辺からの供給が薄い点に注意する
採用環境の地域差や、それが一時的か構造的かは、単年・単一地域の数字ではなく、複数年と47都道府県を並べて初めて見えてきます。こうした分析の土台になるデータを、Queriaは整えた形で公開しています。e-Statをはじめとする官公庁のオープンデータについて、列名・単位・文字コードを揃え、テーブルやカラムの意味をメタデータとして添えてあります。データを集めて加工する手間をかけずに、本記事で使った都道府県別の労働統計テーブルから、自社の拠点候補地の有効求人倍率や賃金水準を確かめられます。統計の整備に時間を取られず、どこで・どう採用するかという判断そのものに集中できます。