
商業地の㎡単価で出店候補地を比較する—47都道府県データで見る土地価格の地域差
新規出店の候補地を比較するとき、商圏人口や駅前歩行者数とあわせて欠かせないのが土地の取得・賃借コストの感覚です。都市部と地方では商業地の㎡単価が一桁単位で違うため、同じ売上計画でも初期投資の妥当性は地域によって大きく変わります。
この記事では、国土交通省の不動産情報ライブラリが公表する不動産取引価格情報から、商業地として取引された宅地の㎡単価を都道府県別に集計します。出店候補地を絞り込む前段として、地域ごとの相場観をデータで掴むための分析です。
データの概要
不動産情報ライブラリの不動産取引価格情報(reinfolib.main.mart_trade_prices)は、宅地建物取引業者へのアンケート調査をもとに整備された、個別取引単位の実勢価格データです。物件種別と土地用途区分は次のとおりです。
| 物件種別 | region 区分 |
|---|---|
| 宅地(土地と建物) | 住宅地 / 商業地 / 工業地など |
| 宅地(土地) | 住宅地 / 商業地 / 工業地 / 宅地見込地 |
| 中古マンション等 | (区分なし) |
| 農地 | (区分なし) |
| 林地 | (区分なし) |
ここでは更地・整地済み宅地の取引価格をそのまま比較するため、property_type = '宅地(土地)' のうち region = '商業地' に絞ります。㎡単価は取引価格を面積で割った unit_price カラムをそのまま使い、円→万円に換算しています。商業地の取引件数は2024年で全国約6,700件、47都道府県すべてで10件以上の取引が記録されています。
全国の㎡単価推移
まず、商業地㎡単価中央値の長期推移を見ます。
2007年の11.0万円/㎡から2013年の6.6万円/㎡まで一貫して下落したのち、2014〜2021年は6.5〜7.0万円/㎡の狭いレンジで横ばいに推移しました。2022年以降は緩やかな上昇に転じ、2024年は8.0万円/㎡。中央値ベースで見ると、全国平均ではリーマン後の調整局面が長く、本格的な反転は2022年以降という形になっています。
ただしこれは全国の中央値であり、地域ごとの動きはこの推移に従っていません。次に、2024年時点での都道府県別の水準を確認します。
都道府県別の商業地㎡単価ランキング(2024年)
2024年の商業地取引から都道府県別の㎡単価中央値を算出します。47都道府県を上位10・中間27・下位10の3グループに色分けしました。
東京都の87.0万円/㎡が突出しており、2位の神奈川県(38.0万円)に2倍以上の差をつけています。3位以下は大阪府(34.0万円)、京都府(33.0万円)、兵庫県(17.0万円)と続き、上位5都府県はすべて首都圏・近畿圏で占められています。下位は秋田県(1.8万円)、鳥取県(2.7万円)、山形県(3.0万円)、青森県・岩手県(各3.1万円)と東北・山陰の県が並び、東京都との差は約48倍に達します。
中間27県は3.5〜8.5万円/㎡の幅に収まっており、24県は4〜6万円台に集中しています。地方主要都市を抱える県と純粋な地方県の差は意外と小さく、商業地の集積で知られる広島県(12.0万円)、福岡県(9.9万円)も、東京都とは7倍以上の開きがあります。
地図で見る地域分布
同じ2024年データを地図に展開します。色が濃いほど商業地の㎡単価が高い地域です。
色の濃淡は首都圏・近畿圏・福岡周辺に集中し、東北から日本海側にかけて広がる薄い帯と対照的です。同じ「商業地」でも、東京都心の繁華街と地方都市の沿道商業では地価の桁が異なるため、出店検討の初期段階では「どの県は何万円/㎡帯か」という相場観を持っておくことが重要になります。
主要都府県の㎡単価推移
最後に、商業地取引件数が多い5都府県(東京都・神奈川県・大阪府・愛知県・福岡県)の長期推移を比較します。
東京都は2007年の71.0万円/㎡から2012年の48.0万円/㎡まで下落したのち、2013年以降は基本的に上昇基調が続き、2024年は87.0万円/㎡と2007年の水準を上回りました。大阪府は2010年代を19〜24万円/㎡のレンジで停滞しましたが、2022年以降に上昇ピッチが加速し2024年は34.0万円/㎡。神奈川県は2010年代を25〜28万円/㎡でじりじり上昇したのち、2022年以降に加速して2024年は38.0万円/㎡となっています。一方、愛知県は11〜14万円/㎡のレンジで動きが小さく、福岡県も6〜10万円/㎡で推移しており、5都府県の中ではボラティリティが低い結果になっています。
出店判断の観点で見ると、東京都・神奈川県・大阪府は単価水準そのものが高い上に近年の上昇ピッチも速く、用地確保のコスト・スピードの両面で他県と異なるアプローチが求められます。一方、愛知県や福岡県のように相場が比較的安定している県では、長期計画ベースで物件を比較検討しやすい環境にあると考えられます。
業務での活用
このデータは以下のような業務シナリオで使えます。
- 出店候補地の絞り込み: 売上計画から逆算した出店可能な㎡単価帯と、各都道府県の相場を突き合わせ、候補県を機械的に絞る
- 初期投資の概算見積もり: 必要面積と各県の㎡単価中央値から土地取得コストの目安を試算し、地域別の収益モデルを比較する
- ベンチマーク設定: 同業の競合店舗が立地する県の㎡単価と自社の出店予定エリアを比較し、家賃交渉や物件評価のベンチマークに使う
- 中期的な地域戦略の検討: 主要都府県の時系列推移から、上昇ピッチが速い県・安定している県を区別し、出店ペースの優先順位を決める
reinfolib.main.mart_trade_prices は市区町村コード(municipality_code)や面積・建蔽率・容積率といった物件単位の属性も持つため、都道府県集計よりさらに細かい商圏単位での分析にも展開できます。また nlftp.boundary.prefecture などの境界データと結合することで、本記事のような地図表現にも素直につながります。Queriaでは複数のオープンデータを SQL で横断的に組み合わせられるため、出店戦略のような複合的な意思決定の下支えとして活用できます。
まとめ
- 2024年の商業地㎡単価中央値は、東京都87.0万円から秋田県1.8万円まで約48倍の地域差があります
- 全国中央値は2013年に6.6万円まで下がったあと2021年まで横ばい、2022年以降は緩やかに上昇しています
- 上位は東京都・神奈川県・大阪府・京都府・兵庫県で、首都圏・近畿圏に集中しています
- 主要5都府県の時系列を比べると、東京都・神奈川県・大阪府は2022年以降の上昇ピッチが速く、愛知県・福岡県は相対的に安定しています
商業地の取引価格は出店候補地評価の出発点となる基礎データです。同じ「商業地」というカテゴリでも県によって相場の桁が異なるため、定量的な比較軸として早い段階で見ておく価値があります。