
医師は増えているのに届かない — 都道府県データで見る医師偏在の構造
2024年12月、厚生労働省は「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」を策定しました。医師少数区域での勤務を病院長要件とする仕組みや、外来医師過多区域での新規開業への規制など、踏み込んだ内容です。2026年4月からの施行に向けて準備が進んでいます。
なぜここまで強い対策が必要なのか。日本の医師数は一貫して増え続けているにもかかわらず、地域間の偏りは解消されていません。この記事では、e-Stat「社会・人口統計体系」の都道府県データを使って、医師偏在の構造を可視化します。
全国の医師数推移
まず、全国の医師数がどのように推移してきたかを確認します。
1975年の約13万人から2022年の約34万人へ、47年間で2.6倍に増加しています。年平均約4,500人のペースで医師が増え続けており、絶対数だけを見れば医師不足は着実に改善されてきたように見えます。
人口あたり医師数の都道府県ランキング
しかし、これを人口あたりで都道府県別に比較すると、まったく異なる景色が現れます。直近年(2022年)の人口10万人あたり医師数を、上位と下位それぞれ10道府県ずつ表示します。
最多の京都府(355.6人)と最少の埼玉県(186.2人)の間には約1.9倍の開きがあります。上位には京都・徳島・高知・東京など大学医学部が集中する地域が並ぶ一方、下位には埼玉・茨城・千葉など首都圏のベッドタウンが目立ちます。東京に隣接しながら医師が足りない——いわゆる「ドーナツ現象」です。
格差は縮まっているのか — 代表都道府県の推移
この格差は時間とともに改善しているのでしょうか。上位と下位の代表的な都道府県で、人口あたり医師数の推移を比較します。
すべての都道府県で医師密度は上昇していますが、上位と下位の差はむしろ広がっています。京都府は175人から356人へ、埼玉県は70人から186人へとそれぞれ2倍以上に増えましたが、両者の差は105ポイントから169ポイントへと拡大しました。全員が走っているけれど、先頭との距離は縮まらない。医師偏在の構造的な根深さが見えてきます。
医師数と健康寿命の関係
医師が多い地域ほど住民は健康に長生きできるのでしょうか。人口あたり医師数と健康寿命(男性、2019年)の関係を散布図で確認します。
意外なことに、医師数と健康寿命の間に明確な正の相関は見られません。医師が最も少ない埼玉県の健康寿命は73.48年で全国上位に入り、医師が多い徳島県や高知県は72年前後にとどまっています。医師の数だけでは地域の健康水準を説明できないことがデータから示唆されます。なお、健康寿命のデータは直近の2019年を使用しています。
病院数の地域分布
医師だけでなく、病院という「器」の分布も確認しておきましょう。人口あたりの病院数にも地域差があります。
病院数の分布は医師数の分布と似た傾向を示しますが、完全には一致しません。高知県や鹿児島県のように病院数では上位に入る県もあれば、東京都のように医師は多くても病院の密度はさほど高くない地域もあります。
まとめ
都道府県別の医療データから、以下の構造が見えてきました。
- 全国の医師数は47年間で2.6倍に増加したが、都道府県間の格差は縮まっていない
- 人口あたり医師数は最大と最小で約1.9倍の差があり、首都圏のベッドタウンが最も深刻
- 医師数と健康寿命に明確な相関はなく、医師の偏在は「数」だけの問題ではない
- 病院の分布にも偏りがあり、大都市と地方で医療提供の構造が異なる
2026年4月から始まる新たな偏在対策は、「医師を増やす」から「医師を届ける」へと政策の軸を移そうとするものです。医師少数区域での勤務を管理者要件とする仕組みや、外来過多区域での開業規制は、これまでにない踏み込んだ介入です。40年以上変わらなかった格差構造に、政策はどこまで切り込めるのか。今後のデータの変化を注視していく必要があります。