出店候補地を広く集めたあと、市区町村ごとの数字で一次スクリーニングをかけることがあります。そこでよく使われるのが昼夜間人口比率です。その市区町村に通勤で入ってくる人と出ていく人を差し引きした数字で、100を超えれば人を集める側、下回れば人を送り出す側になります。100を下回る自治体を「ベッドタウン」として候補から外す、といった仕分けに使えます。
ただしこの数字は、市区町村をまるごと平均した値です。市区町村は面積で見れば数十から数百平方キロメートルあり、その内部が均一である保証はありません。住む人がほとんどいないまま数千人が働いている区画がその中にあっても、周りの住宅地と平均されて数字の上では消えます。
この記事では、市区町村よりはるかに細かい1kmメッシュの統計を使い、比率が100を下回る自治体の内側にどれだけの雇用集積が残っているかを数えます。なお比率が100未満であることは「通勤者を送り出す側」を意味するだけで、そのすべてが大都市の住宅地というわけではありません。以下では、この指標で候補地を仕分けるという実務上の使われ方を指して「ベッドタウン」と呼びます。
人が住む場所と働く場所を、1kmメッシュで分けて見る
使うのは地域メッシュ統計です。日本全国を緯度・経度で機械的に区切った1kmの正方形ごとに、統計値を集計したもので、市区町村の境界に依存せずに地域を比べられます。メッシュを識別するコード(mesh_code)は8桁の数字で、上位4桁が約80km四方の第1次メッシュ、次の2桁がそれを64分割した約10km四方、最後の2桁がさらに100分割した約1km四方を表す入れ子構造になっています。上位の桁が同じメッシュは地理的に隣接するため、コードの前方一致だけで広域の切り出しができます。
このテーブルで使う列は3つです。nighttime_population は令和2年(2020年)国勢調査による夜間人口、つまりそのメッシュに住んでいる人の数です。employees と establishments は平成28年(2016年)経済センサス‐活動調査による従業者数と事業所数で、そのメッシュで働いている人と、その働き口の数を表します。住む人と働く人が別々の調査から来ているため、両者の調査時点は4年ずれています。また従業者数は日本標準産業分類のA〜Rを対象とし、S(公務)を含みません。官公庁だけが集まる区画は、この数字の上では小さく見えます。
全国で人口または事業所が記録されている1kmメッシュは184,209か所あります。まず、市区町村の昼夜間人口比率(A6108、2020年)を横軸に、その市区町村の中で最も従業者が多い1kmメッシュの従業者数を縦軸に取り、1,739市区町村を並べます。昼夜間人口比率は市区町村単位の指標で、政令指定都市については行政区ごとではなく市全体の値です。
Data:e_stat.code.municipalitye_stat.ssds.a_municipal_populatione_stat.census.daytime_population_mesh_1km
比率が高い自治体ほど大きな集積を持つ傾向はありますが、その関係は強くありません。両対数で描いたこの図の上での相関係数は0.13で、最大メッシュ従業者数の中央値は比率100未満の自治体で1,365人、100以上の自治体で1,739人と、1.3倍ほどの差にとどまります。生の値のまま計算すると相関係数は0.51になりますが、これは比率も集積も極端に大きい東京都中央区(232,159人)や千代田区(195,253人)といった数自治体に引っ張られた値です。
1,739市区町村のうち1,147が比率100未満ですが、そのうち139市区町村は、従業者が5,000人以上集まる1kmメッシュを内部に持っています。左側の青い点が縦方向に大きく広がっているのがその姿です。
「働く人だけ」の区画を数える
内部の集積を極端な形で取り出すため、ここでは「従業者が1,000人以上いて、夜間人口が100人未満」の1kmメッシュを数えます。1平方キロメートルに1,000人以上が働きに来ているのに、住んでいる人はほとんどいない区画です。従業者が1,000人以上のメッシュは全国に12,627か所あり、そのうち521か所(4.1%)がこの条件に当てはまります。
メッシュにはそれぞれ1つの市区町村コードが割り当てられます。緯度・経度で機械的に区切られている以上、境界をまたぐメッシュも丸ごとどちらか一方の市区町村に入ります。またコードが付いていないメッシュ(海上など、どの市区町村にも属さないもの)や、行政区の再編で現行のコード一覧に無いものもあります。以下ではコードから現在の市区町村を特定できた451か所を対象にします。この451か所は238市区町村に分布し、そのうち206か所(45.7%)は、昼夜間人口比率が100を下回る111市区町村の中にありました。市区町村の指標が「通勤者を送り出す側」と評価している自治体に、この種の区画の半数近くが存在していることになります。
次のグラフは、比率100未満の市区町村について、内部にある該当メッシュの従業者数を合計し、上位15市区町村を並べたものです。
Data:e_stat.code.municipalitye_stat.ssds.a_municipal_populatione_stat.census.daytime_population_mesh_1km
最も多いのは東京都大田区で、11か所のメッシュに合計66,098人が働いています。大田区の昼夜間人口比率は96.5で、区全体としては通勤者を送り出す側です。次いで千葉県浦安市が3か所で33,026人(比率96.0)、神奈川県横浜市が11か所で30,577人(比率92.5)と続きます。埼玉県狭山市は該当メッシュが1か所だけですが、そこに15,328人が集中しており(比率95.1)、単一の区画だけで上位に入っています。
上位15市区町村の昼夜間人口比率は、最も低い船橋市の84.4から福山市の99.8までに収まり、15市区町村のうち13が90以上です。通勤者を大きく送り出している自治体ではなく、100をわずかに下回る自治体にこれらの集積が入っています。比率が100に近いほど「どちらでもない」と読み流されやすい帯であり、そこが最も見落としの起きやすい範囲になります。
事業所数を並べると集積の性格が分かる
上位の区画では、夜間人口が0人と記録されているものが並びます。大田区のメッシュ53392652は住む人0人に対して31,058人が働いており、浦安市の53393750も0人に対して26,663人です。市区町村の平均では96前後の比率に収まっていた自治体の中に、住む人がまったくいない働く場所が1km四方で存在しています。
同じ「働く人だけの区画」でも、少数の大きな事業所が占めているのか、小さな事業所が集まっているのかで、立地の意味は変わります。従業者数と事業所数を並べると、その違いが読み取れます。次の表は、昼夜間人口比率が100未満の市区町村にある該当メッシュを、従業者数の多い順に10件並べたものです。
Data:e_stat.code.municipalitye_stat.ssds.a_municipal_populatione_stat.census.daytime_population_mesh_1km
1事業所あたりの従業者数は、浦安市のメッシュで321人、埼玉県狭山市で189人、千葉県君津市で175人です。同じ大田区の中でも差があり、メッシュ53392652は185事業所で168人なのに対し、53392690は339事業所で17人と、10倍近い開きがあります。事業所数はどちらも3桁ですが、1件あたりの規模がまったく違います。
平均規模が大きい区画は、そこで働く人の多くが少数の事業所にぶら下がっていることを意味します。1件の移転や生産調整が従業者数に効きやすく、需要の変動幅も大きくなりやすい構造です。平均規模が小さい区画は、個々の入れ替わりがあっても総量が急には動きにくいと考えられます。従業者数だけを見て候補地を評価すると、この差は見えません。
どの都道府県に多いか
該当メッシュ451か所を都道府県別に数えます。色が濃いほど該当メッシュが多い都道府県です。
最も多いのは愛知県の43か所で、千葉県38か所、北海道30か所、兵庫県28か所、神奈川県27か所と続きます。東京都は18か所で8番目にとどまり、京都府・奈良県・高知県は0か所でした。ここでの件数は面積や総従業者数で割っていない実数なので、県の広さや経済規模の違いをそのまま含みます。それでも、居住地と切り離された働く場所の数では、東京都より愛知県・千葉県のほうが多く記録されています。従業者数から公務が除かれていることも、官庁の集積がある都府県の件数を小さくする方向に働きます。
候補地スクリーニングへの組み込み方
- 昼夜間人口比率で自治体を足切りする前に、その自治体内の1kmメッシュ最大従業者数を併せて見ます。比率が100未満でも、5,000人規模の集積を持つ自治体が139あります
- 従業者数と事業所数はセットで取得し、1事業所あたりの従業者数を出します。同じ従業者規模でも、1件あたりが大きい区画と小さい区画では、変動のしかたが違います
- メッシュコードの上位6桁で約10km四方に丸めると、隣接する複数の集積をまとめて評価できます。市区町村の境界をまたぐ商圏を扱うときに有効です
データの出典
本記事は総務省統計局の地域メッシュ統計を2026-08-03時点で集計しています。夜間人口は令和2年国勢調査、従業者数と事業所数は平成28年経済センサス-活動調査によるものです。市区町村の昼夜間人口比率は社会・人口統計体系のA6108(2020年)、メッシュの市区町村コードから名称への対応は総務省の統計に用いる標準地域コード、地図の境界は国土交通省の国土数値情報 行政区域データを使いました。
働く場所と住む場所は、市区町村という単位では平均されて1つの数字になります。1kmメッシュまで下りて初めて、その内側にある集積の大きさと性格が見えてきます。こうした比較の土台になるデータを、Queriaは整えた形で公開しています。国勢調査・経済センサスのメッシュ統計と市区町村統計、標準地域コード、行政区域の境界について、列名・単位・文字コードを揃え、テーブルやカラムの意味をメタデータとして添えてあります。本記事で使った昼夜間人口メッシュテーブルを開けば、自社の候補地がある市区町村のメッシュを従業者数の順に並べたり、市区町村別人口テーブルの昼夜間人口比率と突き合わせたりできます。統計の整形に時間を取られず、候補地の絞り込みそのものに集中できます。
Dig deeper with an AI agent
Connect Queria to Claude or ChatGPT, or use Claude Code or Codex, and paste the prompt below. It also works from your phone or browser.
For example, you could explore “従業者が1,000人以上で夜間人口が100人未満の1kmメッシュを、自分の県の市区町村別に数えて。従業者数の合計と事業所数、1事業所あたりの従業者数も出して”.
Using Queria's open data, analyze the following: 従業者が1,000人以上で夜間人口が100人未満の1kmメッシュを、自分の県の市区町村別に数えて。従業者数の合計と事業所数、1事業所あたりの従業者数も出して Reference (this report): https://queria.io/showcase/mesh-employment-cluster.md Connect with the Queria connector (https://queria.io/mcp) or the Queria CLI (uvx queria). Run uvx queria --help and uvx queria docs list to learn the CLI.
Start in a terminal (CLI)
claude "Using Queria's open data, analyze the following: 従業者が1,000人以上で夜間人口が100人未満の1kmメッシュを、自分の県の市区町村別に数えて。従業者数の合計と事業所数、1事業所あたりの従業者数も出して Reference (this report): https://queria.io/showcase/mesh-employment-cluster.md Connect with the Queria connector (https://queria.io/mcp) or the Queria CLI (uvx queria). Run uvx queria --help and uvx queria docs list to learn the CLI."