物件取得や出店の判断では、市区町村単位でもまだ粗いことがあります。同じ区の中でも、丁目が違えば住んでいる世帯の数も、住宅の価格水準もまったく異なるためです。
前々回・前回の記事では、賃貸需要の代理指標である民営借家率を都道府県から市区町村・区まで下ろしました。ただし持ち家・民営借家といった住宅の所有形態は、もとの住宅・土地統計調査が標本調査のため市区町村が最小単位で、丁目・大字までは下りられません。
そこで本記事では、丁目・町名まで取得できる別の2つのデータ、すなわち全数調査である国勢調査の小地域集計(世帯数)と、不動産情報ライブラリの不動産取引価格(中古マンション)を組み合わせ、東京都江東区を例に住宅需要のミクロな分布を読み解きます。
データの概要
2つのデータを丁目・町名の単位で使います。
| データ | 単位 | 内容 |
|---|---|---|
国勢調査 小地域(small_area) |
丁目(町丁・字) | 人口・世帯数・境界(2020年) |
不動産取引価格(mart_trade_prices) |
町名(地区) | 中古マンションの取引価格 |
国勢調査小地域は全数調査なので、丁目単位の世帯数まで把握できます。不動産取引価格は町名(丁目番号を除いた大字・町名)単位で、ここでは中古マンションの取引価格を専有面積で割った㎡単価の中央値を、取引件数10件以上の町名について算出します。
丁目別の世帯数密度(2020年)
まず、江東区の丁目別に世帯数密度(1平方キロメートルあたりの世帯数)を地図で見ます。
世帯数密度は丁目によって大きく異なります。北部の住宅地(新大橋・富岡・扇橋など)や大島の集合住宅地区は1平方キロメートルあたり2万世帯前後と高密度です。南部の臨海部は丁目ごとの差が大きく、有明三・四丁目や青海二丁目のように開発途上で世帯密度が一桁から千台にとどまる地区がある一方、東雲一丁目のようにタワーマンションで居住が進み1万8千世帯を超える地区もあります。世帯数密度は、その丁目にどれだけの居住者がいるか、すなわち住宅需要の規模を直接的に示します。
町名別の中古マンション㎡単価(2020〜2024年)
次に、住宅の価格水準を町名別に見ます。中古マンションの取引価格から算出した㎡単価の上位15町名です。
㎡単価が高いのは永代(128.0万円)、門前仲町(125.0万円)、佐賀(124.0万円)など、都心に近く下町情緒の残る西部の町です。一方、タワーマンションで知られる豊洲(113.1万円)や有明(111.7万円)も高水準ですが、上位3町名には届きません。新しい住宅供給が集中した臨海部よりも、都心に近い西部の町のほうが単価が高いという、エリアごとの市場の性格の違いが見えてきます。
丁目別の価格分布(2020〜2024年)
町名別の㎡単価を、丁目の境界に重ねて地図にすると、価格の地理的な勾配がより明確になります。
価格は西部(永代・門前仲町・清澄など)と臨海部(豊洲・有明)で高く、両者にはさまれた中央部や北部でやや下がる傾向が見えます。取引のない丁目(工業地区や公園など)は色が付いていません。同じ江東区でも、丁目・町名まで下りると住環境と価格水準が連続的に変化していることが分かります。
業務への活用
丁目・町名レベルのデータは、物件取得や出店のエリアを最終的に絞り込む段階で力を発揮します。
- 立地の最終評価: 市区町村でエリアを絞った後、丁目別の世帯数密度で商圏の規模を、町名別の取引価格で資産価値の水準を確認する
- 需要と価格のバランス: 世帯密度が高く価格が相対的に手頃な丁目は、賃貸・店舗ともに費用対効果の高い立地になりやすい
- 開発余地の把握: 世帯密度が低い臨海部のような地区は、今後の住宅供給で需要が伸びる余地があると読める
所有形態(持ち家・民営借家)は市区町村が最小単位ですが、世帯数密度と取引価格は丁目・町名まで下りられます。マクロな構造(都道府県・市区町村の民営借家率)からミクロな立地(丁目の世帯密度・町名の価格)まで、目線を連続的につなぐことで精度の高いエリア評価ができます。
このデータの読み方と注意点
本記事は総務省統計局の令和2年国勢調査小地域集計と、国土交通省の不動産情報ライブラリが公開する不動産取引価格情報を、2026年7月11日時点で取得して集計しています。対象は東京都江東区に限っています。
世帯数密度は、丁目ごとの世帯数を境界データの面積(平方キロメートル)で割ったものです。世帯数が0の小地域と面積が取得できない小地域は除いています。工業地区や公園など居住のない区画で密度が定義できないためです。㎡単価は「中古マンション等」の取引価格を専有面積で割った値の中央値で、2020年から2024年の取引を対象とし、取引件数が10件以上の町名だけを集計しました。件数が少ないと中央値が個別の取引に振り回されるためです。地図では丁目名から末尾の「〜丁目」を落として町名と突き合わせているため、名称が一致しない丁目には色が付きません。
このデータでは、国勢調査の世帯数は2020年時点の値で、その後に竣工したマンションの入居は反映されていません。取引価格は実際に成約した物件の集計なので、売り出し中の相場や賃料の水準とは異なります。また㎡単価は築年数・階数・間取り・駅からの距離を調整していないため、町名間の差には物件属性の違いも含まれます。取引件数が10件に満たない町名は、価格のグラフにも地図にも現れません。
住宅需要は、世帯数と取引価格を丁目・町名まで重ねて初めて、同じ区の中の濃淡が見えてきます。Queriaは、こうした分析の土台になるオープンデータを整えた形で公開しています。国勢調査や不動産取引価格について、列名・単位を揃え、テーブルやカラムの意味をメタデータとして添えてあります。データを集めて加工する手間をかけずに、本記事で使った不動産取引価格のテーブルから任意の市区町村に対象を切り替えられます。データの整備に時間を取られず、物件取得や出店のエリアを見極める判断そのものに集中できます。
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