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台風の強さと大きさを分けて数える——中心気圧では影響範囲は読めない

台風が近づくたび、複数の拠点を持つ企業では拠点ごとに休業の可否や資材の前倒し搬入を決めることになります。判断の入口に置かれやすいのは、中心気圧の数値と「非常に強い台風」といった呼び方です。ただしこの2つはどちらも中心付近の激しさを表すもので、どれだけ広い範囲が風にさらされるかは含んでいません。

気象庁は台風の大きさと強さを別々の物差しで区分しています。強さは中心付近の最大風速で、大きさは強風域(風速15m/s以上の風が吹く範囲)の半径で決まります。強風域の半径が500km未満のときは大きさを表現しない決まりなので、「強い台風」という呼び方からは大きさの情報が落ちます。

この記事では気象庁のベストトラックを使い、日本の陸地に上陸または通過した台風の記録を、強さと大きさに分けて数え直します。

数えるデータの素性

使うのは気象庁のベストトラック(mart_jma_typhoon_tracks)です。1951年以降の台風について、原則6時間ごとの解析時刻ごとに1行を持ち、中心位置・中心気圧・最大風速・強風域と暴風域の半径を収めています。ここで使う列は次の5つです。

列 内容
central_pressure_hpa 中心気圧(hPa)
max_wind_speed_ms 最大風速(m/s、10分間平均)
wind30_longest_radius_nm 30ノット(約15m/s)以上の風域=強風域の長径(海里)
latitude 中心の緯度
is_landfall 日本の陸地へ上陸または通過した解析時刻かどうか

is_landfall が付くのは1991年以降の台風だけで、それより前は実際に上陸した台風でも false になります。また気象庁が報道発表で使う「上陸」が北海道・本州・四国・九州の海岸線に達した場合を指すのに対し、このフラグは離島の通過も含みます。強風域の半径は海里で記録されているため、1海里=1.852kmで換算します。

対象は、is_landfall が付き強風域の半径が記録されている258地点です。1991年から2025年までの130個の台風が該当し、中心気圧は910〜1004hPa、強風域の半径は37〜1019kmの範囲に散らばります。同じ台風が上陸と再上陸を繰り返すと複数の地点が数えられるため、地点数は台風の個数より多くなります。

まず、この258地点を中心気圧と強風域の半径で並べてみます。破線は気象庁が大きさの階級を切り替える500kmと800kmの境目です。

中心気圧が低いほど強風域が広い傾向はありますが、点は縦に大きくばらついています。中心気圧が970hPaと記録された20地点だけを取り出しても、強風域の半径は167kmのものから695kmのものまであります。半径が4倍になれば風にさらされる面積は16倍になるので、同じ「970hPa」でも備えるべき範囲はまったく違います。

強さの階級と大きさの階級はどう組み合わさるか

気象庁の階級区分は次のとおりです。強さは最大風速、大きさは強風域の半径だけで決まり、互いに参照しません。

強さの階級 最大風速
(表現しない) 33m/s未満
強い 33m/s以上44m/s未満
非常に強い 44m/s以上54m/s未満
猛烈な 54m/s以上
大きさの階級 強風域の半径
(表現しない) 500km未満
大型 500km以上800km未満
超大型 800km以上

258地点をこの2つの階級で分類します。強風域の半径は方向によって長さが違うため、ここでは長径(最も広い方向の半径)で判定しています。

最大風速が33m/s未満で強さの階級がつかない地点は152で、全体のおよそ6割を占めます。ところがそのうち57地点が大型、2地点が超大型で、59地点が大きさの階級を持ちます。強さの階級がつかない地点の4割近くが、強風域の半径500km以上を伴っていたことになります。

逆の側も見ておきます。最上位の「猛烈な」に該当する2地点は、どちらも強風域の半径が500km未満で、大きさの階級はつきません。中心付近の風は最も激しい部類でも、風が吹く範囲は平均的な台風より狭いという組み合わせです。「大型で強い台風」という呼び方が2つの独立した軸の組み合わせであることが、実際の分布からも確かめられます。

北へ行くほど弱くなるが、狭くはならない

台風は北上するにつれて海水温の低い海域に入り、勢力を落とします。では、風にさらされる範囲も同じように縮むのでしょうか。上陸・通過地点の緯度を4つの帯に分け、最大風速と強風域の半径の中央値を並べます。

最大風速の中央値は、北緯31度未満の38.6m/sから北緯37度以上の25.7m/sまで、およそ3分の1下がります。中心気圧の中央値も955hPaから985hPaへ30hPa上がっており、北の地点ほど勢力が落ちていることは数値のとおりです。

一方で強風域の半径の中央値は、南から順に491km、463km、491km、472kmで、緯度帯による傾き自体がほとんど見当たりません。最も北の帯でも、最も南の帯の96%の広さを保っています。北上した台風は中心付近の風こそ弱まるものの、風が及ぶ範囲は縮まないまま到達している、と読めます。

中心気圧や強さの階級だけを追っていると、この差はそのまま見落としになります。

都道府県別に、強さと大きさの出方を比べる

もう少し具体的に、拠点のある地域ごとに見ます。上陸・通過地点の座標に最も近い都道府県を割り当て、7地点以上ある16都道府県について、「強い」以上だった割合と「大型」以上だった割合を並べます。解析時刻の中心位置は上陸の直前で海上にあることが多いため、県境の内側に入っているかではなく最も近い県で割り当てています。

2本の棒の長さの差が、そのまま「強さで測るか大きさで測るかで見え方が変わる度合い」になります。北海道は17地点のうち「強い」以上がわずか6%(1地点)で、16都道府県の中で最も低い値です。ところが「大型」以上は47%(8地点)あり、これは沖縄県の50%とほとんど変わりません。強さの物差しでは端に位置する地域が、大きさの物差しでは中位に並びます。

同じ向きのずれは本州の各県にも出ています。兵庫県は13地点のうち「強い」以上が31%に対して「大型」以上が62%、和歌山県は15地点で33%に対して60%、愛知県は7地点で29%に対して57%です。ずれは逆向きにも出ていて、「強い」以上の割合が高い熊本県は8地点で88%に対して50%、沖縄県は32地点で72%に対して50%と、大きさのほうが下回ります。2つの割合が完全に一致するのは長崎県(16地点で31%と31%)、高知県(18地点で56%と56%)、神奈川県(7地点で57%と57%)の3県でした。地点数が10に満たない県の割合は数地点の入れ替わりで動くため、傾向の向きだけを読んでください。

2つの物差しは県の並び順を入れ替えるだけでなく、地域差の大きさそのものも変えます。「強い」以上の割合は6%から88%まで開くのに対し、「大型」以上の割合は20%から71%に収まり、16都道府県のうち12県が40%台から60%台に入ります。強さで測ると地域差が大きく見える一方、大きさで測るとどの県も似た水準に並びます。大きさの側へ最も振れているのは北海道の41ポイント差、次いで兵庫県の31ポイント差です。逆向きに最も振れているのは熊本県の38ポイント差でした。

業務でどう使うか

  • 拠点ごとの警戒基準を、強さ(最大風速)と大きさ(強風域の半径)の2軸で持つ。「非常に強い」以上で発動、といった単一の階級による基準は、大型で強さの階級がつかない台風を取りこぼします
  • 北日本・日本海側の拠点では、中心気圧の値を影響範囲の代理指標に使わない。上陸時点の中心気圧が高くても、強風域の広さは南の拠点と変わらない前提で、営業再開までの時間を見積もります
  • 自社拠点の緯度経度から半径を指定して過去の上陸・通過地点を絞り込み、拠点別の頻度表を作る。上の集計は都道府県単位ですが、同じテーブルと同じ条件で、任意の座標を中心にした集計に置き換えられます
  • 強風域だけでなく暴風域(wind50_longest_radius_nm、25m/s以上の範囲)も同じ行に入っているため、休業判断と屋外作業の中止判断を別の閾値で設計できます

データの出典

本記事は気象庁のベストトラックデータを2026-08-01時点で集計しています。階級区分は気象庁の台風の大きさと強さに従い、都道府県の割り当てには国土交通省の国土数値情報 行政区域データを使いました。

台風の強さと大きさは同じ行に別々の列として入っているので、片方だけを見て備えを決めていないかは、データを横断して数え直せばすぐに確かめられます。こうした確認の土台になるデータを、Queriaは整えた形で公開しています。気象庁をはじめとする官公庁のオープンデータについて、列名・単位・文字コードを揃え、テーブルやカラムの意味をメタデータとして添えてあります。本記事で使った台風経路テーブルを開けば、自社拠点の近くを通った台風の記録を年ごとに確かめたり、強風域と暴風域の半径を並べて見たりできます。気象データの整形に時間を取られず、拠点ごとの基準づくりそのものに集中できます。

Dig deeper with an AI agent

Add the Queria skill to Claude Code or Codex and paste the prompt below. It works in a terminal or in the remote view on your phone or browser.

For example, you could explore “1991年以降に上陸・通過した台風について、強風域の半径と暴風域の半径を地点ごとに出して。中心気圧の10hPaごとの帯でそれぞれの中央値も比べて”.

Using Queria's open data, analyze the following: 1991年以降に上陸・通過した台風について、強風域の半径と暴風域の半径を地点ごとに出して。中心気圧の10hPaごとの帯でそれぞれの中央値も比べて
Reference (this article): https://queria.io/showcase/typhoon-strength-vs-size.md
Use the Queria skill (https://docs.queria.io/queria-skill) if it is installed; otherwise connect with uvx queria.
Start in a terminal (CLI)
claude "Using Queria's open data, analyze the following: 1991年以降に上陸・通過した台風について、強風域の半径と暴風域の半径を地点ごとに出して。中心気圧の10hPaごとの帯でそれぞれの中央値も比べて
Reference (this article): https://queria.io/showcase/typhoon-strength-vs-size.md
Use the Queria skill (https://docs.queria.io/queria-skill) if it is installed; otherwise connect with uvx queria."